お待たせしました、コードギアスSS、更新です。
今回は、宣言通りシャーリーを。個人的にはけっこう好きなキャラなんですが、世間的には評判が悪い彼女。ことあるごとに「ウザさ」を発揮しているのがいけないんでしょうか……。
内容としては、時事ネタを絡めたバレンタイン話ですね。
時系列はあまり気にしないでください。とりあえずは、ルルーシュがギアスを持つ以前ということで。そもそも、あの世界にバレンタインなんてものがあるかも不明ですし。
そう言えば先週、「この青空に約束を」のSSを書くかどうかについて触れた気がしますが、未だに何も決まっていません。1週間の定期更新でもこの有り様。うーん、どうしよ……。
あ、ちなみにルルーシュの好物は設定通りなんで。
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コードギアス 04.シャーリーの日常① 「バレンタインデーにて」
「むー……」
放課後、一人きりの生徒会室。
図書室で揃えた資料を前に、わたしは首を捻っていた。
簡単な作り方を確認。まずは湯煎をして、型に流し込んで、冷やして……。
うん、大丈夫。ここまでならわかる。
でも、それでお仕舞いってのは寂しいから、きちんと飾り付けを……ん、アイシング……?
うわ、これは難しそう。やめやめ。もっと別のを。
わたしにもできて、けど、見た目は豪華で……?
そんなのあるのかな……。
「あー、もう……!」
頭を抱えて、机に突っ伏す。何度目かの小休止。
こんな調子で、さっきからちっとも進んでない。
失敗だった。お料理が得意そうな会長にアドバイスをもらおうと思ったのに、残念ながら退席中。
きっとまた、何かとんでもないイベントでも企画してるんだろうなぁ……。
となると、当日近くは、わたしたち生徒会役員も駆り出されることが決定済み。
部活が休みのこの日に、計画を進行させておかなきゃならない。
だから余計焦るのに……。
どうしよう、この後。
クラスの娘たちには聞けないよね。どうせ、相手のことまで吐かされるんだろうから。
ソフィは作ったことないって言ってたし……。
会長にはバレちゃってるっぽいから、頼りにしようと思ったんだけど。
うーん……やっぱり、人を当てにしようっていうのが間違いだったのかな。
自分の身の丈に合ったアプローチのほうがいいのかも。
「それってどんなのかなぁ……」
天井を仰ぎ見て、自分が、相手の目の前に立ったときのことを思い浮かべる。
目標は、数日後に迫ったバレンタインデー。
作るのは、もちろんチョコレート。
包装紙とリボンは買ってあるから、できあがったチョコを綺麗にラッピングして。
それを、あの人に……。
「……ルルに」
自然と心があったかくなるのを感じながら、わたしは、幾度目かの疑問に突き当たる。
ルルにあげるとして、それはいったい、どういう意味で?
義理? それとも……。
「…………」
答えは、まだ出ない。
自分の気持ちは決まっている。決まっている、はず。
けれど、だからこそ、伝えられずにいる。
伝えて、もし通じなかったら。
壊れてしまう。クラスでも生徒会でも、気まずくなってしまう。
そんなのはイヤだ。耐えられない。
だったら、伝えないほうがいい。考えないままのほうがいい。
そう思ってきた。
弱虫……なんだよね、わたしは。
このままじゃ、何も進まない。どこにも進めない。
そんなことはわかってる。
でも、どこかで、進まなくてもいいやと思っている自分がいる。
もう少しだけ、この気持ちを抱いたままでいたい……。
怖くて、そして、愛おしくて。
そうやってたくさん悩んだ挙句、このチョコも、結局は「義理だから」なんて言って渡しちゃうんだろう。
リヴァルたちに渡すのと、同じように。
ほんのちょっとだけ、わからないようにチョコを大きくして。
気付いてほしくて。気付かなくてほしくて。
矛盾する思い。ダメな自分。
弱虫な上に、我が侭。
「だって、仕方ないじゃない……」
誰もいないのに、小さく呟く。
ルルがわたしに、そういう好意を持っているとは思えない。
わたしだけじゃない、女の子みんなに。
自分は何でもわかってます、みたいな顔をしておきながら、恋愛ごとにはものすごく疎くて。
「ううん……」
そうじゃない。
鈍感とは……実際にそうかもしれないけど、ちょっと違う。
恋愛になんて、構っていられないんだ。
ルルの気持ちは、今は全部、別なものに向かっているんだろう。
自分の妹である、ナナちゃんに。
そして……ここではない、どこかに。
わたしだから、わかる。わかってしまう。ルルの見ているものが。
傍にいるナナちゃんを見つめながら、その瞳は、どうしようもなく遠くを見つめている。
その何かが何なのかは、わからない。
過去か。
未来か。
「わかんないよ……」
そんな人を振り向かせる自信なんて、わたしにはない。
同じものを見つめることもできない。
時々、目を合わせるだけで精一杯。
だから、チョコを作ろうとしたのも……もしかしたら、伝えるためじゃないのかもしれない。
ただ、繋ぎとめておきたいから。
放っておいたら遠くへ行ってしまいそうなあの人を、この場所に。
あなたを心配する人がいるんだと、形にして示したくて。
わたしはここにいるんだと、わかってほしくて。
そんなのは、単なる自己満足……なんだろうだけど。
「やめちゃおうっかなぁ……」
チョコなんて作るの。
どうせ『好きだ』って言うつもりがないなら、いっそ作らないほうがいいのかも。
それに、ルルのことだから、マズいもの食べさせたら露骨にイヤな顔するんだろうし。
無理にお世辞言われても嬉しくないし。
だったら、もう……。
「シャーリーさん……?」
「……え?」
扉の開く音がして振り返ると、ナナちゃんが入ってきていた。
一人で来るなんて珍しい。
妙に恥ずかしくなって、意味はないのに、バタバタと本を片付けながら声をかける。
「どうしたの? ルルならいないけど」
「いえ、会長さんに来てほしいと言われましたので」
「そ、そうなんだ……」
あの人のことだから、彼女もイベントに巻き込むつもりなんだろうな。
何気に人気高いみたいだし、ナナちゃん。
「まだ来てないみたいだから、待ってる?」
「はい。……あの、シャーリーさんは何をしてらっしゃったんですか?」
「え? えーと、その、チョコの作り方をね……調べようと……」
「チョコ?」
「う、うん。バレンタインが近いから、それで……」
ナナちゃんの無邪気な笑顔の前に、誤魔化すこともできない。
これがルルの大切な人、かぁ……。
「知ってる? バレンタイン」
「ええ。咲世子さんから教えてもらいました。こちらで毎年行われるお祭りの一種で、女の子が好きな男の子へ、チョコといっしょに思いを伝える日だって」
「お祭り……まぁお祭りかな。みんな浮かれてるし」
「シャーリーさんにも、好きな人がいるんですか?」
「ぅえ? う、ううん。違う、違うの。わたしのはあれ、ほら、義理ってやつ。好きってやつなんかじゃなくて、日ごろの感謝の気持ちを送るつもりで……それで……」
「それも、女の子から男の子へ?」
「そうじゃない場合も多いけど、わたしのはそうかな。ほら、リヴァルとか……ルルに……」
「お兄様に?」
「う、うん。そうなんだ。どう……かな。甘いもの、嫌いじゃない……?」
「大丈夫だと思います。意外と好きなんですよ、お兄様」
「へー……」
これは知らなかった。さすがは実の妹。
案外、一番頼りになるのはナナちゃんだったのかもしれない。
なら……。
「あのね、あくまで参考までに聞くけど……いいかな」
「何ですか?」
「チョコ以外では、どんなものが好きか知ってる……?」
「そうですね……。あ、」
「なになに?」
「プリンとか」
「プ!? そ、それ本当!?」
「はい。小さいときから変わってないんです」
「プリン……」
ルルとプリン。
想像してみる。いつもの澄ました顔でプリンを食べているルルの姿を。
「…………っ」
声には出さず、わたしは必死でお腹を抱えた。
だ、ダメだ。好きな人を笑うなんてできないけど、これはさすがに……。
「シャーリーさん?」
「ご、ゴメン。ちょっと驚いちゃって……。じゃあ、プリン作ったほうがいいのかな」
「チョコじゃなくていいんですか?」
「うん。どうせなら、喜んでもらいたいし」
プリンを前にしたルルは、どんな反応をするんだろう。すっごく楽しみ。
会長たちにからかわれるルルの姿を想像していると、いつの間にか、気持ちが明るくなっていた。
そうだ、前向きに行こう。
そのほうが、わたしらしい。
元気を分けてあげられればいいな。少しでも、わたしが。
「……あ、もう一つ、参考までに聞くけど」
「はい」
「ルルに本命のチョコを渡す人がいるとして、ルルはどう受け取るか……」
「いませんよ?」
「……はい?」
「いません、本命チョコを渡す人なんて」
「でも、もしかしたら……」
「いませんよ?」
「ひょっとすると……」
「いないんです」
「万が一、仮に、可能性としていたとしたら、どうする……?」
「どうしましょう」
「…………」
そこにあったのは、いつもと同じ、眩しいほどの笑顔。
それが逆に、怖い。
「シャーリーさん、プリン作り、頑張ってください」
「う、うん……」
「お兄様、きっと喜びますから」
「そう、だね……」
曖昧な返事してから、気付かれぬよう、小さく息をつく。
しまった。
最大の協力者は、最大の難敵だった。
「カラメルは、ちょっと濃い目のほうが好きなんです。卵の分量は……」
「…………」
果たして、わたしの恋は実るのだろうか。
それはまだ、誰にもわからない
END
ナナリー人気高しww
シャーリーは「日常の象徴」だと思っているのでこういう感情の吐露はどこかで書きたいと思っていたんですが、それだけではパンチ不足と考えナナリーを登場させたら思わぬ効果を得たようです。