ペット 空影 -karakage- 忍者ブログ
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2024/05/07 14:17 |
【SS】 パルフェ 01-1.「里伽子vs玲愛 ラウンド2 (前編)」

 非っ常にお待たせしてしまいました。初のパルフェSSです。宣言通り、メインは玲愛と里伽子で。
 とは言っても、まだ前編なのですが……。調子に乗って書いていたら長くなりそうだったので、2つに分けてしまいました。後編は近日中にでも更新予定です。しばしお待ちを。

 時系列と言うかルート的には、これといって特定はしていません。仁と玲愛がお互いを名前で呼んでいても、玲愛編に入っているわけではありません。あくまで共通パートを想定しています。
 特別な状況下である場合は予め説明しますので、基本的にはこのスタンスでいこうかなと。

 あと、原作はPC版のパルフェとしています。要するに美緒はいません。彼女がいると、ファミーユのスタッフとかいろいろとややこしくなるので……。
 これも、いてほしいときには予め説明します。登場する予定は今のところありませんけど。

拍手[2回]


 01(前編、後編)・02(前編中編後編)

パルフェ 01-1.「里伽子vs玲愛 ラウンド2 (前編)」

「……ない」
 夜。ファミーユの終業後。
 自らの部屋の前で、ファミーユの店長――高村仁は呆然と立ち尽くしていた。
 もう一度、コートとズボンのポケット、サイフの中まで確かめる。
 が、やはり、ない。
「マジか……」
 疲れと落胆の入り混じったため息が漏れた。
 簡素なドアを睨みつける。
 ノブをがちゃがちゃと回してみる。
 開くことはない。
 中に入れない。
 要するに、鍵がない。
 落としてしまったようだ。
 朝はかけたはず――こうして閉まっているのだから、仕事中か、行き返りの道中で無くしたのだろう。
 しまった。
 どうしよう。
 探そうにも、いつどこで落としたのか記憶がない。
 それに、空は真っ暗だし、寒いし、何より……。
「っくしゅん」
 これだ。
 ここ最近、どうも風邪気味だった。
 まだ引き初めではあるものの、お客様と大事な従業員にうつしては一大事ということで、今日ばかりは即時帰宅を願い出ていた。
 かすりさんにからかわれ、由飛と明日香ちゃんに気遣われ、姉さんには泣かれるくらい心配されながら早々に帰途へと着いたというのに……。
「っくしゅん」
 この有り様だ。
 このままでは、さらに風邪が悪化してしまう。
 そうなると……悲しいかな、あまり自分が抜けたことによる仕事上の支障は見当たらないが……。
 いや……たぶんうちの要であるメインパティシエールはいつかのように……。
「……と、とにかく」
 そんな、恥ずかしくもほぼ正確な想像は置いておいて。
 この危機から脱するべく、仁は携帯電話を取り出した。
 紛失の件は後々解決するとして、今は、合鍵を持っているそのパティシエールに連絡を取ろう。
 今ごろ、もう部屋に帰っているだろうか。
 来てくれるとしたら――来ないなんてことはないのだけれど、何分ぐらいかかるだろうか。
 そう考えつつ、仁は電話番号を呼び出そうとして……。
「げげ!」
 手が止まる。
 体が硬直する。
 頼みの携帯電話は、液晶画面が真っ暗だった。
 カチカチとボタンを押しても、何も反応しない。
 要するに電池がない。
「マジか……」
 悪いことは重なるのだろうか。
 そう言えば、今朝ロッカーに入れるとき、電池マークが一つしか点灯していなかった。
 思い出したところでどうにもならないが。
 一応、機体を振り回したり電池を抜き差ししたりと無駄な抵抗をしてみたものの、それが徒労に終わるとわかると、仁はもう一度、深々とため息をついた。
 やめよう。
 仕方がない。
 覚えているかどうかは怪しいが、公衆電話で我が姉に連絡を取ることにしよう。
 確か、コンビニの近くにあったはずだ。
 小銭はあっただろうかとサイフを探りながら歩き出そうとして……。
「っくしゅん」
 三度目のくしゃみ。
 これが契機だったのかどうか。
 暗がりから、女性の声が聞こえた。
「……何やってるのよ」
 呆れた口調と呆れた顔とともに現れたのは、一人の少女だった。
 日本人離れした相貌。頭の両脇で結わえられた髪。大きなリボン。
「玲愛……?」
 誰あろう、キュリオのフロアチーフ――花鳥玲愛だった。
 時間から言って、彼女も職場からの帰りなのだろう。
 赤いコートをはためかせ、つかつかと仁の下へ歩み寄ってくる。
「玲愛? じゃない」
「違うのか?」
「そうじゃなくて。あんた、風邪気味なんでしょ? 大丈夫なの?」
「どうして俺が風邪だと……」
「違うの?」
「……そうだけど」
 さすがは玲愛。
 お向かいの店長の体調までチェックしているらしい。
「だったら、早く部屋に入ればいいのに」
「そ、それは……」 
「……もしかして無くしたとか? 鍵」
「…………」
「露骨にぎくっとした顔しないでよ」
 さすがは玲愛。
 洞察力も人一倍らしい。
 扉の前で立ちんぼでいたら、誰だって想像できるかもしれなけれど……。
「仕方ないわね……」
「?」
「入りなさい。早く」
 そう言って玲愛は、仁の部屋から向かって右のドアの前で足を止めた。
 実にすんなりと鍵が開く。
 当然だ。
 なぜならそこは、彼女の部屋なのだから。
「……いいのか?」
「キュリオは、弱みに付け込むようなマネはしないのよ」
「は?」
「相手の店長を風邪で寝込ませて、その隙に乗じようなんて考えないってこと」
「…………」
「わかった?」
「……いや~、誘ってもらって悪いけど、ここは川端さんの世話になろうと……」
「素直に入りなさい! それに瑞奈はまだ帰ってない!」
「……はい」
 玲愛の剣幕に押され、仁はすごすごと退散――ではなく、彼女の後に続く。
 正直なところ、玲愛のこういった性格に今度も感謝していた。
 天の助け。
 まさに救世主だ。
 ただ、そのままほいほい付いていくのは癪だったので軽口を叩いてみたのだが……。
 どうやら、お気に召さなかったらしい。
 扉を開ける後ろ姿だけで不機嫌なことがわかる。
 肩を怒らせたまま、玲愛は靴を脱ぐと室内へ入っていった。
「おじゃましま~す……」
 そろそろと、仁も玄関へ足を踏み入れる。
 暗かった部屋にはすぐに明かりが灯され、蛍光灯の下にはコートを脱いだ玲愛が立っていた。
「とりあえず炬燵点けたから。暖房が効くまで入ってるといいわ」
「炬燵……」
 言葉の通り、部屋の真ん中には温かそうな炬燵が鎮座ましましていた。
 相変わらず、顔立ちのわりに日本情緒をよく理解したやつだ。
「どうしたの? 早く靴脱ぎなさいよ」
「今さらながらに女性の部屋に入るという抵抗感が……」
「い、意識させるようなこと言わないで! さっさとなさい!」
「……へーい」
 どうも押されっぱなしだなと考えながら、仁も部屋へと上がった。
 ますます怒った様子の玲愛から目を逸らしつつ、炬燵に足を突っ込む。
 小さめのそれは、すでに熱が行き渡っていた。
 温かい。
 生き返る。
「はぁー……」
「いま、お茶淹れるから」
「おー……」
「感謝の言葉は?」
「あー……ありがとうございますー……」
「何だかぜんぜん……まぁいいけど」
 不貞腐れながらも、玲愛はキッチンへと向かった。
 コンロの上に、ヤカンが置かれる。
 天板に頭を乗せながら、仁はひたすらに温もりを貪り続けた。
「あぁ、やっぱり炬燵はいいよなぁ」
「あんたのところにはないの?」
「姉さんがダメだって言うんだよ。炬燵で寝たら風邪引くって」
「なくても引いてるじゃない」
「……言うな、それを」
「気を付けなさいよ? 流行ってるらしいから」
「キュリオでもか?」
「あいにく、うちには体調管理を怠るようなスタッフはいないから。どこかの店長さんと違って」
「板橋さん、かわいそうに……」
「あぁ。あの人なら、今日も元気に暇してたわ」
「いろいろと微妙な発言だな、それは」
「その微妙な発言にも抵抗できないんだけどね、今の仁は」
「…………」
「はい、お茶」
 気遣うか嫌味を言うか、どっちかにしてくれ。
 そう言うとまた怒るだろうから口にはせず、仁は大人しく湯のみを手に取った。
 一口、含む。
 ふはぁと息を吐く。
 うん、うまい。
 茶葉もなかなかのものを使っているらしい。
 ほどよい温度のほうじ茶は、内から体を温めてくれた。
「それで、どうするの?」
「どうするって?」
「鍵よ、鍵」
「どうするったってなぁ……」
「言っとくけど、私は嫌だからね。あ、あ、あんたを……」
「こっちから願い下げだ」
「先に言うな!」
「あ、そうだ玲愛。充電器持ってないか? 携帯の」
「……メーカー違うでしょ」
「え? そうだっけ?」
「そうよ」
「ダメかぁ……」
「仁も私のと同じにすればいいのに。安いわよ? お金ないんでしょ? かける相手もいないんでしょ?」
「二言ほど余計だ」
「事実じゃない」
「家族割り引きができるんだよ、姉さんと」
「…………」
「んー、どうすっかなー」
「……愛しい愛しいお姉ちゃんでも呼べばいいじゃない」
「だからそれができないから……って言うか、愛しいを二度も言うな」
「……事実じゃない」
「他人に言われると腹立つな」
「その前に否定しろ! あんたはいつもいつも……!」
 なぜか、いつものように口論を始めてしまう仁と玲愛。
 と言うより、一方的に怒りを露にする玲愛と、風邪のために気力のない仁。
 鍵に関してはいっこうに解決法が見つからず、約一名によって引き起こされる争いばかりが白熱し、お茶ばかりが冷めていき……。
「ピンポーン」
 と、それを押し留めたのは、場違いなほど大きく響いたチャイムの音だった。
 玲愛の部屋のものだ。
 何よこんな時間に、と文句を言いつつ、玲愛は立ち上がる。
 玄関へと歩いていく背中を見送りながら、仁はお茶に口をつけた。
 すっかり温くなってしまっている。
 来客への応対が終わったら、代わりを淹れてもらおう。
 ……などと考える仁は、すっかり油断しきっていた。
 気が抜けていた。
 人のエアコンを勝手に操作するくらいに。
「……あれ?」
 だから、玲愛が不思議そうに首を傾げても、特に気にはしなかった。
 何かの勧誘かなと思っただけだった。
 続く彼女の言葉を耳にするまでは。
「夏海……さん?」 
「……なに?」
「え、ひ、仁ですか? えーと……」
「…………」
 湯飲みを持ったまま、凍りつく仁。
 戸惑ったように振り向く玲愛。 
 どうやら……。
 今日という日は、まだまだ終わりそうにないらしい。


  To be continued...

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2007/04/22 22:55 | Comments(3) | TrackBack() | SS

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コメント

パルフェSS書いてる人いるんだなぁ
下の米同様、キャラの性格把握しててうまいなぁと感心しました
posted by NONAMEat 2012/03/03 03:33 [ コメントを修正する ]
Re:無題
お返事遅れてしまい、大変申し訳ありません。
コメント、どうもありがとうございました。ブログにはしばらくアップしていませんが、楽しめていただけたようなら幸いです。
2012/07/12 17:26
うまいですね。キャラの性格よく把握してるし。ゲームにあってもおかしくないシナリオだw
posted by 名無しさんat 2008/09/09 08:54 [ コメントを修正する ]
Re:無題
ありがとうございます。
目標としているのが『限りなく原作に近づく』なので、その点を評価していただけたようで嬉しいです。
2008/09/12 23:26
なんかものすごく気になる終わらし方ww

posted by SEVENat 2007/04/24 17:39 [ コメントを修正する ]
Re:無題
コンセプトというか狙った方向性が、本編にあった里伽子va玲愛に仁本人を加えることだったので、どう舞台を整えるかに容量を費やしてしまいました。
繋がりの薄い二人のため、意外と苦労したり。
2007/04/24 23:47

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