ペット 空影 -karakage- 忍者ブログ
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2024/11/22 18:39 |
ココロノうちでの 第1-16話 「彼と彼女たちの時間」

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ココロノうちでの 第1-16話 「彼と彼女たちの時間」

ココロノうちでの まとめ

 その日の夜。
 教師四人は、電車に揺られていた。
 休日のこの時間帯、繁華街へ向かう車内は混み合っている。運良くドア際のスペースを確保できた四人は、大きな体をなるべく縮こまらせながら、小声で会話していた。
「時間は大丈夫そう?」
「うん。平気。来るとき確認もしてきたから」
 ミナの質問にリンが答える。
 二人だけでなく、彼女たち全員は、薄く化粧をし、余所行きの服を着ていた。これから外で人と会って、食事会兼飲み会をするためだ。とは言っても、相手は気心の知れた同年代の女性なので、それほど着飾る必要はない。
「カイくんも、今ごろなに食べるか考えてるかな」
 今日の約束は前々から決まっており、カイにも伝えられていた。当然のことながら私生活で教師たちと繋がりのないことになっているカイは参加者には入っておらず、一人家に残される彼に夕食を作っていこうかとミナは申し出たのだが、「俺のことは気にしないで楽しんできてください」と断られていたのだ。
 それでも、ミナとしては気になっていた。以前に聞いたユウの説明からすると、ミナから見れば退廃的とも言える食事を取りかねない。
「心配なら連絡してみたらどうだ?」
 と、ユウが言いながら目を向けたのはリンだった。
「あ、あたし?」
「連絡って……リン、カイくんの連絡先知ってたの?」
 ミナに聞かれて、リンはなぜか慌てたように、
「さっきよ、ついさっき。家を出る前、サエがあいつに連絡先の交換持ちかけたところに居合わせて、それであたしも、サエに強引に……」
 そのサエは、自分の携帯電話を操作しながら、待ち合わせ場所のグルメ情報を検索している。彼女の意識は、目前の夕食に向いているらしい。
「とにかく、そこまで気にする必要ないんじゃない? あいつだってこれまで一人暮らししてたんだし、一食ぐらい何とかするでしょ」
「うん……」
 リンに言われて、ミナは不承不承頷く。
 二人の会話を聞きながら、扉に寄りかかったユウは、窓の外を流れ行く景色に目をやって呟いた。誰に向けたわけでもなく、小さく、ぶっきらぼうに。
「まぁ、どのみち女といるだろうけどな」

 幸か不幸か、ユウの予想は当たっていた。
 四人を送り出したカイは、しばらくして家を後にした。先生たちから予定を聞かされてから、カイも人と会う約束をしていたのだ。
 駅で電車に乗り、向かった先は、優衣の家の最寄り駅。
 ただ、行き先は彼女の部屋ではない。駅近くのお好み焼き屋だ。優衣の部屋と同じように何度も足を運んだ場所なので、道順は覚えている。
「いらっしゃいませー」
 木目調の扉を開けると、眩しい明かりと、それに合った内装が出迎えてくれた。いくつかの支店を持つチェーン店。広めの店内はジュージューという音と香ばしい匂いが立ちこめ、ボックス席は若者や家族連れで賑わっている。
 待ち合わせをしている旨を店員に伝えて、カイもその内の一つに案内された。備え付けのメニュー表を広げていると、女性店員が歩み寄ってくる。
「早かったね、間宮くん。和美は?」
 優衣だった。
 フロアにいる幾人かの店員と同じ制服を着て、手に持った水と氷の入ったグラスをカイの手元に置く。ここは彼女のバイト先だ。
「後から来るとさ。そっちは?」
「もうすぐ終わるから、ちょっと待ってて。あ、ご注文は? お客様」
「とりあえず……サラダと焼きそば。飲み物はまた後で」
「はいはーい。じゃ、また後でね」
 注文用の端末を操作した優衣は、スカートを翻して去っていった。去年から続けているという店員姿は、少々小柄ではあるがサマになっている。
 料理が来るのを待ちつつ、カイは店の時計に目を向けた。約束の時間まであと少し。着いたと連絡してもいいが、向こうもそろそろ到着するだろう。
 そう思ったところで、入り口の扉が開く気配がした。身を乗り出して伺うと、レジの辺りで店内を見渡している人物がいる。待ち合わせ相手だ。
 手を振ると、気付いた相手がこちらに向かってくる。
「お待たせ」
 ティーシャツにハーフパンツ、肩掛けのバッグという出で立ちのの彼女は、そう言いながらカイの向かいに腰を下ろした。ボーイッシュなショートカット。先生たちほどではないが、女子にしては高い身長。カイや優衣のクラスメート。
 比良坂和美。
「何やってたんだ? 忙しいって言ってたけど」
 メニュー表を渡しつつ、カイは尋ねた。家が近くなのだからいっしょに来てもいいだろうに、今日の昼過ぎにメールを送ったら断られたのだ。
「部屋の片付け。部活も休みだから、こういうときにやらないと」
「殊勝な心がけだな」
「……って、玲美に言われて」
 メニューをめくっていた和美は「なに頼んだ?」と聞き、「焼きそばとサラダ」とカイが答えると、物足りなかったのか、座席に置いてあるブザーで店員を呼んだ。やって来た優衣に挨拶をしてから、とん平焼きとバターコーンを注文する。前菜だというのにそんなに食べて、本題であるお好み焼きが入るのか、とカイは思ったが、和美ならば大丈夫なのだろう。機嫌を損ねそうなので口にはしないが。
「玲美も誘ったんだけどね、今日は遠慮しとくって。父さんも母さんも家にいるから、今ごろはみんなでご飯食べてるんじゃないかな」
「お前はいいのか?」
「あたしが来ないと、優衣と二人っきりになっちゃうでしょうが」
「……まぁ、その場合はお開きになるだろうけどな」
 さすがに和美も、カイが買い物の手伝いで優衣の部屋へ上がり込んでいることまでは知らない。そんな和美の手前、二人きりになればお開きになると言ったものの、実際はどうなっていただろうか。今日の食事会は、カイが優衣に「日曜に食べに行く」と伝え、それならばと優衣が友人である和美を誘ったことで開かれたのだが、和美の都合が合わなければ、「なら二人でやろうか」と優衣なら言い出しかねない、平然と。
 ちなみに、タクにも声をかけたが、にべもなく断られた。元々期待してはいない。誘わなかったら誘わなかったでヘソを曲げるから連絡しただけだ。
「そっちは? まだ暇なの?」
「来週……いや、もう今週か。そろそろミーティングがあるみたいだ」
 しばらくして料理が届き、バイトを終えた優衣も合流した。三人でグラス――もちろん未成年なのでソフトドリンク――を打ち鳴らし、食事会が始まる。
 カイにしてみれば両手に花ではあるものの、毎朝毎晩に比べればよほど気が楽なのであった。目の前の彼女たちには失礼かもしれないが、異性という意識がないからこそ、男性一人に女性二人という奇妙な組み合わせが成立するのだろう。
 それは、タクが加わっても同じだ。こういう関係があってもいいと、カイは思う。

 その後も会は続き、ポケットに入れてあったカイの携帯が振動したのは、テーブルの鉄板でお好み焼きが焼き上がったころだった。メールだ。送信者はサエ。携帯電話で撮影したのか、イタリア料理と思しき画像が添付されている。
 タイトルも本文もなかったので一瞬理解に苦しんだが、おそらく「こんなものを食べている」というメッセージだろう。こちらの食事も気にしているかもしれないと思い、お返しにと、優衣の代わりにこのテーブルの担当になった店員に許可をもらい、フラッシュをたかないように気を付けつつ料理を撮って、サエに送る。
「めっずらしい」
 彼の行為に真っ先に反応したのは和美だった。
「どうしちゃったの、そんなことして」
「い、いや、玲美に送ったんだ。お前はこういうことしないだろ?」
 その言葉がウソにならないよう、同じ写真を玲美にも送った。「言い訳に使っちゃったみたいでゴメン」と、心の中で謝りながら。

 一方、同じころの先生たち。
 待ち合わせ相手はどこに行くか考えていなかったらしく、サエが見つけた店へ向かうことになった。そこそこの値段で、なかなかの料理を食べさせてくれるという。社会人生活を始めてまだ日の浅い彼女たちのサイフにも優しい。
 サエの先導でたどり着いたのは、駅から離れた場所にある欧風のレストランだった。小さな店だったが、彼女たちのような大人が料理だけでなくここで過ごす時間ごと楽しめるような雰囲気作りがされており、客席の殆どは主として女性客と、彼女たちを連れた男性客で占められている。予約もなく五人が入れたのは幸運だったらしい。
 席に案内され、奮発して注文した少々高めワインとともにの料理が届けられると、サエはカイと同じ手続きを経て――店員に断りを入れたのはリンだが――写真を撮り、カイに送った。サエにしてみれば、登録したばかりのアドレスを使ってみたいというのが第一の目的だったものの、意外にも返信があり、添付されていた写真を他の同居人にも見せようと、まずは隣に座っているリンに差し出してみる。
「なになに、おもしろい写真?」
 二人の行為に、向かいに座っていた人物も興味をそそられたらしい。
 三千院千種。学園の養護教諭。
 職種は違えど、同じ職場で働く同僚であり、去年から付き合いがある四人とは、こうしてしばしば食事にも出かけている。学園の関係者ではあるが一族のことは何も知らず、写真は見せるが、発信者の名前は隠さなければならない。
「普通の写真……ね。美味しそうではあるけど」
 提示された画面を見た千種は、あからさまにガッカリしたようだ。
「誰から? さっきメール送ってた相手?」
「……友達、から」
 友達という表現は微妙だが、そう説明するしかない。
「友達ぃ~? 男からじゃないの~?」
「…………」
「サエに限って、そんなことあると思う?」
「いや……正直、なさそう」
「それより、このお店、当たりだったんじゃない?」
「あ、うん。雰囲気もいいしね。また来てもいいかも」
 リンが千種をはぐらかしている間に、サエの携帯電話はミナに渡った。カイがまともな食事をしていることを知って、ミナは胸をなで下ろす。
 ただ、気になったのは、写っている皿の数。
「……一人分の量じゃないよね。誰かといっしょなのかな」
 傍らのユウはそれに答えず、黙々と食事を続けた。

 また一方、カイたち三人。
「ふぅー、もうお腹いっぱい」
「え、優衣、もういいの?」
「うん。十分食べたから」
「……あたしはもう少し、いい?」
「もちろん」
「やめとけよ。割り勘するとき面倒だろ」
「ここまでは三人で割って、これ以降は二人で割ればいいじゃない」
「二人って、俺も入ってんのか?」
「食べないの?」
「……食べるけど」
「食べるんじゃん」
「お前が先にバクバク食うからだろうが」
「バクバクなんて食べてませんー」
「まぁまぁ。食べ足りないなら、店の売り上げに貢献してよ」
「だよね。んーと、次は何にしよっかな……」
「一人で決めんなよ。俺にも見せろ」
 賑やかな会話を交えつつ、食事会は終わりへと向かっていく。  

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2012/10/24 17:40 | Comments(0) | Original

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