またもや遅くなりました。コードギアスSS、更新です。
気が付けば、日付が変わっているではないか……!
今回はどのキャラにしようかなと考えた結果、再びカレンになってしまいました。登場回数が多いキャラは、基本的に書きやすいですね。特にカレンは、ナオトのことだけはあまり触れられていませんが、ある程度キャラ付けがはっきりしてるんで。
内容としては、二重生活を送っているカレンの思いにスポットを当てたものです。あとは、3話に出てきたサンドウィッチの出自が気になったことに対する自分なりの答えを。かなりどうでもいいことなんですが、書いてみれば意外とおもしろいかなぁと思いまして。まぁ、ほとんど妄想なんですけど。
さて次回は、今回書きそびれたヴィレッタか、あとはシャーリー辺りを考えています。
頻度を上げたいので、できれば1週間以内に更新予定。まだどうなるかわかりませんが……。
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コードギアス 03.カレンの日常② 「生徒会室にて」
「痛っ」
指先の痛みに、わたしは顔をしかめた。
左手……人差し指と中指の絆創膏。
朝に貼ったばかりのそれを撫でてから、改めて、右手を動かす。
カバンから取り出したのは、お弁当箱。
(あぁ、もう……)
イライラする。
自分を取り巻く環境と、自分自身に。
(こんな傷を作って、紅蓮の操縦に差し障りがないといいけど)
誰もいないことを再確認してから、ため息を一つ。
重苦しい息は、誰もいない部屋に大きく響く。
放課後の生徒会室。
いつもはにぎやかな室内も、今日はしんと静まり返っていた。
そう言えば、会議があるとか言っていた気がする。
会長とニーナ、あとは、リヴァル辺りも出席しているんだろう。
シャーリーは、たぶん部活。ナナリーとかいう子は、たまにしか来ない。あとの一人は軍。
ルルーシュは……どうでもいいか。
特に何も言われていないのだから、わたしが手伝う義理はないだろう。所詮は形だけ。
結局、満足に仕事も教えてもらってないし。
(最近は顔を出すことも少ないから、当然と言えば当然なんだけど)
もう一度、今度は疲れから来るため息をつくと、遅めの昼食を始めることにした。
ゼロ――騎士団へ向ける精力のせいだろう、近頃は、授業中、寝てばかりいる。
昼食を食べそびれたのも、気が付けば午後の授業が始まっていたからだ。
別に勉強なんて、あの女がうるさく言わないくらいにこなしておけば問題ないと思うけど……。
大変なのは、睡眠不足の理由をいちいちクラスメートに説明しなくちゃいけないことだ。
しつこいくらいに、彼女たちは尋ねてくる。
放っておいてくれればいいのに。どうして眠いのか、なんて。
(これだからブリタニア人は……)
本を読んでたって言い訳も、そろそろ限界かな。次のを考えないと。
ほんと、病弱なんて設定にしなければよかった。こんなことに、神経使いたくないのに。
(わたしは、ただ……)
ぐるぐると思考をかき混ぜながら、弁当箱のフタを開ける。
中には、小奇麗に納まったサンドウィッチ。
一つを取り、口をつける。教室や中庭で食べているときより、大きめに。
こういう意味では、生徒会に入ってよかったのかもしれない。
人がいないときなら、自分を偽ることなく落ち着くことができる。
生徒会のメンバーたちは、それぞれ、深く相手に干渉しようとはしない。
暗黙の了解でもあるのだろう。何しろ、名誉ブリタニア人がいるくらいだし。
(……にしても、)
ピリピリと、まだ痛む左手に目を落とす。これも、病弱設定の弊害の一つ。
おかげで、昼食の用意が面倒なものになってしまった。
混雑する食堂や購買部に行くことができない。ブリタニア人に買ってきてもらうのはイヤだ。
ここで和気藹々とピザを食べる気にもならない。
学外には出られないし……そうなると、お弁当を用意しなければいけなくなる。
でも、作る人間がいない。
あの女が、そんなことするはずがない。使用人に作らせるのもゴメンだ。
だったら、自分で作るしかない。
だからわたしは、学校に行く日は、眠い中、朝早く起きているのに……。
結果として残るのが、切り傷、火傷、その他諸々……そして、この絆創膏。
何度作っても、いっこうにうまくならない。
人に見られる危険性があるから、何とか形だけは整えられるようになったけど。
(まったく……)
どうして、こんな苦労しなくちゃいけないんだろう。
騎士団のアジトにいるほうが、ずっとマシだ。
自分を偽る必要なんてない。食べ物も、好きなときに、好きなように食べられる。
やりたいことも、やれる。
(本当の……わたし)
それは、騎士団の中にいる。いつも、そう思っている。
学園じゃない。ましてや、家でもない。
紅蓮に乗っているときのわたし。ブリタニアと戦っているときのわたし。
胸にあるのは、抑えきれない衝動と、使命。
それに相応する、背負うべき運命と、義務。
様々な、思い。
(こうづき……)
なのに、今のわたしは……。
こんな場所で、こんな時間を……。
「あら、カレンじゃない」
気が付くと、手が止まっていた。
ドアの開く音に、顔を上げる。
入ってきたのは、ミレイ・アッシュフォード。生徒会の会長。
いつものにこやかな笑顔で彼女は、
「どうしたの? それ、お昼ご飯?」
「あ……。え、ええ。食べそびれちゃって」
「まーた居眠りしてたんでしょう? 聞いてるわよ、シャーリーたちから」
「……まぁ、そんなところです」
「ダメじゃない、気をつけないと。夜更かしは美容の大敵なんだから」
「そうですね……」
「悩みでもあるの? 相談事があるなら、話、聞くけど」
「……いえ、大丈夫です」
「そ。ならいいけど」
一瞬、会長の顔が真剣なものになる。
それに気付かないフリをして、わたしは、サンドウィッチに向き直った。
わたしがハーフだという事実を知っても、変わらず近くに置いていてくれる人。
ブリタニア人の中では、まともな部類に入るのかもしれない。
心を許すつもりは、ないけれど。
「あの……早かったんですね。終わったんですか、会議」
沈黙を避けるように、ソファーへと座る会長に声をかける。
彼女は大きく伸びをすると、
「まだじゃない? 私が必要な議題は片付いたから、帰ってきちゃった」
「……平気なんですか?」
「大丈夫、大丈夫。あれでもけっこう優秀なんだから、うちの役員たちは」
「優秀……」
「それに、わたしが出張ってばかりいるわけにもいかないし。いつかは……」
「…………」
「なんてね。……それよりさ、」
そう言って会長は、興味深げにわたしを見つめてくる。
正確に言えば、わたしのお弁当箱を。
「えーと……食べますか?」
「あ、いいの? ゴメンゴメン、お腹減っちゃっててさ」
「よろしければ、どうぞ」
「ありがと。では、お言葉に甘えまして……」
立ち上がり、歩いてくる会長に悟られぬよう、三度目の息をつく。
ほんの僅かに訪れたのは、ありふれた会話。どこにでもある光景。
捨て去りたいと思った、ウソの自分。
わたしにとって、意味のない時間。
(そのはず……だよね)
一瞬だけ、胸が締め付けられたのは、脱却への渇望か。焦燥感ゆえか。
それとも……。
「これ、誰が作ったの? カレン?」
「ええ。一応……」
「へー。それじゃ、いただきまーす」
……そうだ。
学校に通っていてほしいというのが、お兄ちゃんの望みだったから。
お母さんも、そう願っているかもしれない。
だからわたしは、この生活を――日常を捨てるわけにはいかない。
(今は、まだ……)
そう、自分に言い聞かせる。
本当かウソか。どちらかの、自分に。
「……カレン」
「え?」
「あなたが作ったのよね、これ」
「は、はい」
「何と言っていいか……」
「あの、もしかして……」
「うん。すっごくマズい」
「……ほんとですか?」
「マジ。大マジ。よくこんなもの食べられるわね? 舌がおかしいんじゃないの?」
「そ、そこまで言わなくても……」
「このマズさは、皆に知らしめるべきだわ。ニーナたちが戻ってきたら食べさせてあげないと」
「ちょ、ちょっと! 持っていかないで!」
「会長命令執行~」
「返せ! ……じゃなかった、返してください! 会長!」
繰り返されるのは、明日へと続く日々。
見えない未来。見えない自分。
どこへ向かうというのだろう、この、今日という時間は。
(これだから……!)
それはまだ、わたしにも、わからない。
END
これは完全に自分の創作ですww
カレンの性格的に、料理はヘタそうだなぁと。母親と隔絶したのも、子どものころと思われますし。
当初の想定では「辛いもの好き」だったんですが、わかりやすくするためこのようになりました。