いつものようにお待たせしました。コードギアスSS、更新です。今回はヴィレッタを。
内容としては、記憶喪失前、第09話「リフレイン」にて、オレンジことジェレミアといっしょに酒を飲んでいたときの心情が中心です。そのときヴィレッタはどんなことを考えていたのか、オレンジに対する思いはどういったものなのか……という。いつもより捏造の分量が多いかもしれません。オレンジの性格などは、まったくの想像なので。まぁ、今までの展開を見るに、こんなものではないかなぁと。
記憶喪失後のヴィレッタを書くかどうかは……まだ未定。
正直、扇を書きたくなどないのですが……。
次回のギアスSSは、C.C.の2回目かナナリーを予定しています。
どっちにしてもナナリーが絡んでくる雰囲気ですけど。
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コードギアス 05.ヴィレッタの日常① 「バーカウンターにて」
「例のオレンジ事件の……」
「っ」
私の言葉に、隣に座っている男は敏感に反応を示した。
苦々しげに、自分のグラスを凝視している。
ジェレミア・ゴットバルト。
純血派を束ね、一時は辺境伯にまで上り詰めた男。
クロヴィス皇子が暗殺された際、代理施政官を努めたのもこのジェレミアだった。
だが、今では、いちパイロットに身分を落としている。
民衆から、軍内部から、“オレンジ”と揶揄されて。
「失礼しました。例の枢木スザク強奪事件の……」
その原因は、言うまでもなく、“例のオレンジ事件”にある。
あのテロリスト――ゼロの口から漏れた言葉。
そして、枢木スザク逃亡を幇助するかのような行動と、それについてまったく意味を成さない弁解。
ジェレミアの地位を貶めるには十分すぎる内容だった。
元々、この男に反発していた兵は多かったと聞く。
だから私は、以前から具申をしてきたというのに……。
ジェレミアはまったく意に介していなかった。何をバカなと、一笑に付していた嫌いさえある。
力で捻じ伏せられるとでも思っていたのか。
もしくは、その手の根回しが苦手――必要ないと考えていたのかもしれない。
ゴッドバルトという家に生まれ幸運に加え、持って生まれた騎士としての資質。
奢りや、それを支えるだけの自信と実績、誇りもあったのだろう。
高貴で自尊心が強く……そして、愚直な男だ。
自分を信じ、それ以上に、他人に寄らない……。
それ故、あれほどの地位を築いたというのに、従うものは少なかった。
おこぼれを頂戴しようとする輩は大勢いたが、真に部下と呼べる人間は……。
結果として、ジェレミアを弁護しようとするものもいなかった。
挙句、キューエルなどに裏をかかれる始末だ。
絵に描いたような失墜。堕落。
思わず苦笑が漏れる。
同時に、先ほどのジェレミアの横顔が浮かんだ。
そうかもしれないとは思っていたが、まさか、ここまで脆かったとは。
他愛無い一言に身を震わせるほどに。
一旦劣勢に立たされれば、ジェレミアはどうしようもない、どうすることもできない男だ。
根を探れば、この程度の人間だったのかもしれない。
考えもしなかったのだろう、自分が窮地に立たされることなど。
こんなにもあっけなく、崩壊してしまうことなど。
「信じてもらおうとは思わん」
「いえ、私も新宿事変のときに……」
……私?
そう、私だ。
私は、そのジェレミアと運命をともにしつつある。
側近とでもいうべき存在だったのだから、こうなったのは当然と言えるだろう。
しかし、なぜ、私は今までジェレミアに付いてきたのか。
改めて、自問してみる。
その答えは、やはり、ジェレミアにあった。
繊細で脆く、時には呆れるほど愚かな男だが……騎士としての腕は、本物だった。
嫉妬。羨望。
そう表現することも厭わない。
ブリタニアの兵士にとって、ナイトメアを駆ることこそが本義であり、名誉だ。
ジェレミアという男は、そうなるべき資格を持っていた。確実に。
もちろん、これは「信頼」などではない。
ジェレミアの近くにいることでわかった、「観察の結果」だ。
それに……私はどこかで、この男の愚直さに、ある種の安堵を感じていたのかもしれない。
今でこそトップが女性に占められているとは言え、軍はどうしようもなく男社会だ。
くだらない男など履いて捨てるほどいる。
女というだけで、好奇の目を向けてくるやつらがいる。
私という女は、その状況を利用できるほど、器用ではなかった。器用になりたいとも思わなかった。
そんなことをする女には、擦り寄ってくる男ども同様に、吐き気を覚えた。
ジェレミアだけだったのかもしれない、例外は。
この男からは、「男」を感じなかった。
ジェレミアは騎士であり、騎士以外の何者でもない。
ただ、相手が自分と比べてどの程度の騎士なのか、それだけを見ている。
プライドと、性格が成せる技だろう。
そうした姿勢が、私の関心を引いた。
どうやらこの男も、私を認めたようだ。
世間では、「オレンジ」とは賄賂なのではないかと叫ばれているが……。
私個人としては、違うと思っている。
ジェレミアは、そんな器用な真似などできない。
だからこそ、私はこの男に付いてきた。
何かを思わせる――私を引き上げてくれるであろう力があった。
あったはずだ。
こうして酒の席をともにしても、喜びなどは欠片も感じないが、少なくとも、嫌悪は覚えない。
それが、私にとってのジェレミアという存在だった。
「では、その学生が?」
「顔は思い出せません。しかし……」
結果的には今の立場にいるが、そうなったのも、自らの意思に従ったためだ。
意思を曲げたくはない。後悔はない。
それに……まだ、これからだ。
私は終わってなどいない。
判断が間違っていたと結論を出すのは早い。
おそらくジェレミアは、皮肉にも自信の誇りによって、再起を遂げようとするだろう。
騎士としての殊勲を勝ち取って。
だが……私は違う。
どんな手段を使ってでも、這い上がってみせる。
いざとなれば、ジェレミアをも踏み台にするだろう。
世話にはなったが、情けをかける義理はない。
私は、必ず……。
「それでは、私はここで」
「あ、あぁ……」
短い会席を終え、私は一人、立ち上がった。
バーには、ジェレミアだけが残される。
私は振り返らない。
思いが渦巻く。
気がかりであるゼロの正体と……もう一つ。
目前に迫った、僅か一日の休日。
ゼロの捜索を続けてもよかったが、必要以上に体を酷使するなどという愚は冒さない。
では、その日に何をしよう。
買い物……? 読書……?
(……そうだ)
ふと思いつき、店の外へ出ると、足を止めた。
料理をしよう。久しくしていない。
私の、唯一とも言える趣味だった。
何を作るか、メニューを考える。
そうだな……。
(…………!)
菓子にしよう。
それも、フルーツ――オレンジたっぷりのケーキだ。
オレンジ。
これはいい。
そうと決まれば、早速オレンジを買いに行かねば。
(ジェレミアには見つからないようにしないとな)
再び、私は歩き出す。
酒で湿った唇には、小さな微笑が浮かんでいた。
END
そのジェレミアについてですが、とりあえず女性キャラを中心にやっているので、彼中心のSSは今のところ予定にありません。感情を吐露させると収拾付かなくなりそうですし。