昨日と言ったのに今日になってしまいました。遅くてすいません。コードギアスSS、更新です。
今回はコーネリアを。時事ネタであるホワイトデーも絡めてみました。時期的には、スザクがユーフェミアの騎士になった後を想定しています。
コーネリアは自分の中で重度のシスコンキャラが決定済みなので、もちろん話もそっち方向で。
書くのに苦労したのはユーフェミアです。気が付くと腹黒になってしまい……。最後の良心、ということで、極力本編そのままにしてみました。まぁ、今後のSSで壊れていく可能性はあるんですが。
次回はおそらくカレンです。一応、次の土日を予定。
予告通り、ガウェインのパイロット関係かと思われます。
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コードギアス 07.コーネリアの日常① 「ホワイトデーにて」
エリア11、総督用執務室。
普段は誰かしらが控えているべき場所も、今は、部屋の主によって人払いがされていた。
主――コーネリアは一人、革張りのイスに腰掛け思案している。
手元には、一台のノートパソコン。
様々な品物の画像が、モニターを埋め尽くしている。
「……わからん」
ブラウザを閉じると、コーネリアは息をついた。
イラ立たしげに眉間を揉む。
「いったい何を送ればいいんだ……?」
通販サイト、だった。
さらに言えば、ホワイトデー、だった。
遠征が相次ぎ、気が付けば当日が目前になってしまっている。
まだ、何も考えていない。
ユーフェミア――ユフィへのお返しを。
本来、総督である自分がイレヴンの慣習に従うはずなどないのだが……仕方がない。
ユフィからチョコレートをもらってしまっては。
しかも手作りのものを。
コーネリアとしては、当然、拒むことなどできなかった。
受け取ったのであれば、返さなければならない。
でないと、ユフィが悲しむかもしれない。残念がるかもしれない。
このときばかりは姉としての素顔を覗かせ、コーネリアは慣れないプレゼント選びをしていた。
自分も手ずから菓子を作ってやりたいところだったが、そんな時間も技術もない。
租界へと買いに行くこともできず、結果、こうして通販に頼ることにした。
ユフィが喜びそうなものをと、さきほどから考えを巡らしているのだが……。
「むぅ……」
あまりピンとこない。
最後の試みも、やはり徒労に終わるようだ。
コーネリアは、自分で決めるのを諦め、ユフィ本人に選ばせることにしていた。
驚かせてやりたい気持ちもあったが、無難な線ではあるだろう。
今から注文すれば、ホワイトデーに間に合う。
人払いをしたのも、この後、ユフィが来る手はずになっていたからだった。
さすがに、姉妹の会話をギルフォードたちに聞かせるわけにはいかない。
「……さて」
ユフィはどういったものを選ぶのだろう。
おぼろげながらも浮かんでいたアイディアを、ユフィの好みに当てはめてみる。
食べ物か、アクセサリーか。花ということもある。
あるいは服、か。
うん、そうだな、それがいいかもしれない。ユフィに似合う服を。
外出の際にでも着てもらえば……。
「…………」
そこで、ぴたと思考が止まる。
待て。
仮に、例えば、万が一。
自分の送った服を着て、街を歩くとして、その隣に……。
「…………っ!」
瞬間、神経が焼き切れる。
思わず突き出たコーネリアの拳は、目の前のパソコン画面をくだいていた。
まずい、と、彼女にしては珍しく慌ててしまう。
こうして壊した器物は、すでに両手では数え切れなくなっていた。
軍のトップたる自分がこの体たらくでは、部下への示しがつかない。
もちろん、こうなる理由はわかっているのだが……。
あえて考えないようにしていた。
ひとたび考えると、その数秒後には同じ事態になっているから。
「忌々しい……」
不意に漏れた言葉は、自分自身へか、それとも、他の誰かに向けられた言葉か。
痛みの残る右手はそのままに、コーネリアは、ぎしとイスを軋ませた。
ダメだ。
振り払おうとしても、どうしても脳内の雑音が鳴り止まない。
近頃は、書類等の事務仕事も手につかない有り様だった。
いっそのこと戦闘でも起こってはくれないか、などと、物騒なことまで考えてしまう。
戦場においてのみ、本来の自分が取り戻せるような気がする。
それに、命令系統が自分からは離れているものの、ヤツを危険に追いやる可能性もある。
そう、あいつを。
あのイレヴンを……騎士にまでなった……ユフィを奪った……。
「…………っ!」
拳が、今度はパソコンを残らず破壊しようとしたとき。
秘書官からの通信が、それを押し留めた。
待ちわびた人物の到来。短く『通せ』と伝える。
ほどなくして、扉が開いた。
「遅くなりました、お姉さま」
上気した頬のユフィが、部屋へと入ってくる。急いで来たのだろう。
コーネリアの唇に、自然と微笑が宿る。
何でもないというふうに、コーネリアは答えた。
「気にするな」
「あら、このお部屋、何だか焦げ臭いような……」
「……気にするな」
素早く、ぶすぶすと煙を上げるパソコンを閉じる。
ユフィの前では、あくまでいつも通り冷静な姉として振舞っていた。
「それでお姉さま……いえ、総督」
「お姉さまでいい。二人しかいないのだからな」
「はい、お姉さま。あの、ご用事というのは……」
「うん、それなんだが……」
通販の品々を見せようとして、すぐに、自分が中破させてしまったことを思い出す。
仕方ない、口頭にしよう。
そう思い、コーネリアはユフィへと向き直り……。
「…………」
気付く。
ユフィが、何かを胸に抱えている。
大事そうに。
小さな箱のようだったが、綺麗にリボンがかかっている。
さっきまでの微笑みはどこへやら、コーネリアはピクピクとこめかみを痙攣させた。
恐る恐る、尋ねる。増大する不安とともに。
「ユフィ、その箱は……」
「え? あ、こ、これですか? いえ、何でもないんです。ほんとに」
「…………」
真っ赤になって、箱を体の後ろへと隠すユフィ。
不安は確信に変わっていた。
「……枢木か」
「えーと……その……」
「ヤツなんだな?」
「は、はい。ちょっと早いけど、お返しにって、さっき……」
「あげたのか!? チョコを!? 枢木にも!?」
「……はい」
呟くと、ユフィは俯いた。
それは、姉の激昂に怯えたというよりも、照れのためといったほうがいいだろう。
そのことが、コーネリアの沸騰をさらに激しくする。
「ヤツは何をくれたんだ……?」
それでも、コーネリアは懸命に爆発を抑える。
ますます照れた様子で、ユフィは顔を振った。
「だ、ダメですよ。いくらお姉さまでも、見せるわけには……」
「……そうか」
「お姉さま……?」
不自然なほど無表情を形作り、コーネリアは立ち上がった。
机を避け、扉へと歩き始める。
「ユフィ、実を言うとな、お前へのホワイトデーを考えていたんだ」
「そ、そうなんですか……?」
「迷っていたが、どうするか今決めた」
「はぁ……」
「枢木をお前の騎士と認めてやろう。それが、私からのプレゼントだ」
「ほ、本当ですか!?」
「……嬉しいか」
「はい! ありがとうございます、お姉さま」
ユフィの笑顔には答えず、コーネリアは彼女の隣を通り過ぎる。
独り言のように、その口から言葉が漏れていた。
「騎士ならば……騎士であるならば……申し込まれた決闘は受けざるを得ない……」
「……え?」
「それが騎士の定め……騎士の掟……」
「お、お姉さま?」
「戦場など生ぬるい……私がこの手でヤツを処刑してやろう……」
「お姉さま……?」
「ユフィの目の前でな……」
「お姉さま!?」
「くくくくくく……」
いつしか満面の笑みを湛えたコーネリアは、ユフィの制止も聞かず直進し続ける。
ホワイトデー、その数日前。
総督府は、一時騒然となった。
ご乱心だ、という叫びが、あちこちで聞こえたという。
END
今後は、ルルーシュと妹自慢合戦みたいなものをやってもおもしろいかも。