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2024/05/19 20:07 |
【コラム】 「パルフェ」から考えるフラれ女と受け皿:前編

 多少……というか、かなり変化球ですが、たまにはこんなコラムもいいんじゃないかなと。
 前々から考えていたことではあるのですが、コミケが終わったこの時期に、改めて文章にしてみます。誰かに読んでもらうため、というよりは、自分の思考をまとめるためだったかも。ご容赦ください。

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「パルフェ」から考えるフラれ女と受け皿:前編

 このブログを閲覧して下さる奇特な人の中にはすでにご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、当サークルでは、ここ数回のコミケで、連続して「パルフェ」の二次創作SS本を作成しています。その際に決まって盛り込むことにしている設定があり、それは、「里伽子と玲愛が友人である」というもの。
 残念ながら、原作に当たるゲーム本編では、そうした描写はありません。意気投合しかかるシーンはあったものの、本筋とは関係ないと判断されたからか、その後は深く掘り下げないままでした。

 では、なぜ、里伽子に(玲愛という)友人を設定することにしているのか。
 一つには、 里伽子と玲愛が「パルフェ」で好きなキャラであり、彼女たちを「本編では(ありそうで)なかった展開」で動かすことが、単純に二次創作として楽しいから、という理由があります。
 そして、二つ目は、〈フラれ女〉としての里伽子を救うため。これが、本稿に関連しています。

 本稿では、この〈フラれ女〉、及び、彼女たちを救うための手段である〈受け皿〉という観点から里伽子というキャラの有り様を紐解くとともに、「パルフェ」、引いては、恋愛描写のある作品におけるキャラクター設定について、自分なりにまとめていこうと思います。長くなりますが、しばしお付き合いを。
 なお、「パルフェ」を初めとして、いくつか例示する作品のネタバレを含んでいるので、ご注意ください。

■〈フラれ女〉について
 まず〈フラれ女〉についてですが、これは読んで字の如し、好意を寄せていた男性にフラれてしまい(やむを得ず自分からフってしまうパターンも含めて)、「好きな相手との恋愛関係が成立しなかった」キャラのこと指します。「パルフェ」などのギャルゲーでは、その相手は主人公であることが多いでしょう。
 当然、相手に好意を持っていなければフラれることもないので、〈フラれ女〉にはなり得ません。

 では、里伽子はどうでしょうか。
 彼女の場合、ゲーム本編が始まる時点で、すでに主人公に好意を持ってしまっています。里伽子の攻略ルートに入ることで初めて彼女の心に主人公への思いが芽生えるのならば、彼女以外のキャラのルートに入ってしまえば、そのルート上では里伽子が主人公を好きになることはない=〈フラれ女〉にはならない可能性がありますが、実際はそうではなく、途中で彼女の思いが冷めてしまうこともありません。
 彼女以外の攻略ルートに入ってしまうと、必然的に里伽子は〈フラれ女〉になってしまうのです。

 ギャルゲーの場合、それでも、「(攻略対象キャラならば)主人公と結ばれるルートがある」という希望があります。しかし、そうではない作品、例えばマンガにおいて、自分のお気に入りだったキャラが〈フラれ女〉になってしまったとき、相手が架空の人物であるとわかりながら、思わず心配してしまった方もいるのではないでしょうか。フラれた後の彼女は、いったいどうなってしまうのだろう、と。
 そうした思いが、次の〈受け皿〉につながります。 

■〈受け皿〉について
 さて、〈受け皿〉についてですが、これは、〈フラれ女〉となったキャラが失恋の痛手から立ち直るための精神的な拠り所のことを指します。具体的には、「人」や「場所」、「環境」などが考えられるでしょう。

 ここで重要なことは、〈受け皿〉が必要だと作者が判断した、もしくは、ユーザーや読者などの「受け手」が〈受け皿〉があってほしいと願うほどのキャラは、本編中の描写において、質や量的に大きなウェイトを占めているということです。言い換えれば、本編中であまり描写されず、読者に(あるいは作者自身にも)感情移入されないモブキャラのような〈フラれ女〉には、〈受け皿〉は必要ありません。
 〈受け皿〉の必要性は、上述した「どうなってしまうのだろう」という心配に根差しているのです。

 また、そうした彼女にとっての失恋は、必然的に重大なものになるはずです。そうでなければ、受け手は彼女に感情移入せず、そこからすくい上げる方法である〈受け皿〉が必要だと感じないでしょう。
 そのため、〈フラれ女〉に対する〈受け皿〉にも、相応の重みを必要とします。

 例えば、〈フラれ女〉となったキャラが友人と連れ立ってやけ酒をしたとしましょう。
 どちらも、彼女を癒してはくれるかもしれません。しかし、〈受け皿〉の観点からすると、「友人」はそうなり得るものの、「やけ酒」という、手っ取り早くて安直な手段が〈受け皿〉になるかには疑問が残ります。「やけ酒」には彼女の失恋に比するほどの重みがなく、それでは、受け手は納得しないのです。

 仮に「やけ酒」を〈受け皿〉にしたいのならば、(彼との)思い出の銘柄や思い出のグラス、思い出の場所(居酒屋やバー)といった、「やけ酒」をしなければならない必要性、必然性を付与しなければなりません。これが、受け手が〈受け皿〉として納得できるだけの要素=重みとなります。
 同様に、「友人」についても、友人ならば誰でもいいわけではなく、「この人ならば(今までの描写からして)彼女を受け止めてくれるだろう」と受け手が了承してくれるキャラである必要があります。やけ酒に(やけ酒だとわかっていて)付き合ってくれる時点で、そうである可能性が高いとは思いますが。
 
 では、具体的な作品名を挙げて、いくつか〈受け皿〉の例を見てみましょう。
 同性など、周囲の人々が支えになる「友人」、新しく異性の相手ができる「異性」、邁進できる目標を見つける「夢」に大別しました。もちろんこれ以外にもあり、いくつかが複合している場合もあります。

1.友人
○藍より青し:ティナ・フォスター→水無月妙子&水無月ちか&美幸繭
 上に挙げたキャラは全員〈フラれ女〉であり、同じ相手に思いを寄せていました。ラストでお互いに慰め合っており、それぞれがそれぞれの〈受け皿〉になっていることがわかります。二番手ヒロインだと思われるティナを代表にしましたが、妙子やちか、繭にとっての〈受け皿〉が他の四人と見ても問題ありません。
 〈受け皿〉になる素養としても、期間の差はあれど、(繭以外は)一つ屋根の下で暮らし、相手への思いを育む時間をともに過ごしていたため、十分であると考えられます。繭については、立ち直った結果が「それでいいのか?」と首を捻ってしまいますが、まぁそれも彼女なりの前向きな行動ということで……。

○ななか6/17:霧里七華→周囲の人々
 本作は、メインヒロインであるはずの七華(ななか)が〈フラれ女〉となり、彼女の思い人は二番手ヒロインと結ばれるという珍しい作品でした。十七歳の七華では〈受け皿〉が見つけられなかったと思われますが、(精神年齢が)六歳のななかは周囲の人々と交流を広げており、おそらく彼らは、もう一人の自分・ななかを失い、失恋の痛みを抱えた七華を支えてくれるはずです。彼らは七華の世界が変わった証であるため、〈受け皿〉として申し分ありません。なお、中には同性だけでなく異性もいるものの、(何しろ六歳児だったときに知り合ったので)七華と恋愛関係になるとは考えにくく、ひとくくりに「友人」と区分します。
 ちなみに、三番手ヒロイン(幼稚園児を対象外とするとこの順位)も〈フラれ女〉になりますが、彼女の場合の〈受け皿〉は武道という「夢」でした。元々、道場の娘であり、これについても問題はありません。

2.異性
○みゆき:鹿島みゆき→沢田優一
 鹿島みゆき(若松みゆきと区別するためフルネームで表記)は、男女の関係にこそならないまでも、相手と四年間交際し、周囲からも公認の仲となっていましたが、最終的には〈フラれ女〉になりました。彼女が北海道へ旅行に赴いた際に再会したのが、同じく(傷心)旅行をしていた優一です。
 鹿島みゆきと優一の関わり合いはほとんどなく、やや強引な感は否めないものの、鹿島みゆきの傷心をわかってあげれるのは、彼女と同じように、長年幼なじみだった相手と結ばれず、〈フラれ男〉となってしまった優一しかいないとも考えられます。少なくとも、それまでに登場した男性キャラや、名前もないモブキャラよりは、優一の方が相手として相応しいでしょう。その後、二人が付き合い出した描写はありませんが、〈受け皿〉の区分としては、状況から言って「友人」ではなく「異性」であると思われます。

○最終兵器彼女:アケミ→アツシ 
 アケミの場合、相手にフラれたわけではなく、「やむを得ず自分からフってしまうパターン」になります(身を引いた、と言った方が正確ですが)。また、〈フラれ女〉になった後、上述の鹿島みゆきと異なり、明確に「異性」としての〈受け皿〉であるアツシと男女の仲になっていることが描写されています。
 アケミの相手が、例えば行きずりの男性や、名前も、それまでの描写もないクラスメートでは〈受け皿〉とならないでしょう。主人公・シュウジとともに空爆を経験し、「アケミを守りたい」という思いから自衛隊に入るほどの強い意志と行動力を見せてくれたアツシだからこそ、〈受け皿〉たり得るのです。

3.夢
○君が望む永遠:涼宮遙→絵本
 この場合、遙が〈フラれ女〉になるルートの中でも、水月ルートの遙を指します。余談ですが、テレビアニメやノベルス(パラダイム版。MF文庫版はアニメのノベライズ)では、メインヒロインであるはずの遙ではなく、水月ルートが採用されているため、今でも水月ルートこそが正史という印象があります。
 里伽子については後述しますが、遙もまた、周りに〈受け皿〉となる人がいない状況にありました。かつての恋人と親友は自分が昏睡している間に男女の仲になっていましたし、両親は彼女看病疲れでヘトヘト、妹は自身の夢のために海外へ行ってしまいそうです。里伽子と決定的に違う部分は、人に代わる「夢」という〈受け皿〉を見つけられたことにあり、水月ルートのラストで絵本作家になったことで、彼女が立ち直ったと推察することができます。絵本という選択も、本編の描写からして不自然なものではありません。

○こどものおもちゃ:倉田紗南→芸能界
 主人公であるサナですが、思いを寄せていた(と後に自覚する)相手と親友がくっ付いてしまい、一時的に〈フラれ女〉になります。その際、「二人のことを忘れたい」という思いから、芸能界(仕事)に没頭しました。それによって失恋の痛手から立ち直れたのかは判然としないものの(立ち直ってしまうと後の展開につながらないのですが)、元々紗南が芸能人であったこともあり、〈受け皿〉としては適当でしょう。
 なお、その後、紗南は晴れて思い人と結ばれ、入れ違いに彼女の親友・風花が〈フラれ女〉となりました。風花には、紗南の計らいで、風花が引っ越してくる以前に彼女と(恋人とまではいかないまでも)公認の仲だった男子の連絡先が渡されています。二人が恋愛関係に発展したかどうかはわかりませんが、風花が彼に(かつては)思いを寄せていたことから、「異性」という〈受け皿〉になったと考えられます。

■里伽子について
 以上、三つの例から、〈受け皿〉について見てきました。

 では、里伽子はどうでしょうか。
 里伽子は、「パルフェ」全体にはられた伏線や描写の丁寧さから「裏ヒロイン」とでも言うべき存在であり、主人公に対する彼女の思いも相当に深いものでした。それを失ったときの反動も大きいだろうことは想像に難くなく、「彼女には〈受け皿〉が必要だ」とユーザーが感じるのは当然の流れでしょう。

 にも関わらず、里伽子には、自身の恋心や秘密を打ち明けられるような親しい友人はいません。それどころか、現在、彼女の活動の場であるはずの大学にすら友人がいないように見受けられます。
 主人公以外の異性は拒絶していましたし、夢どころか、趣味と呼べるものすらありません。〈フラれ女〉になりかかったときの描写からすると、親(母親)にも秘密を打ち明けていないようでした。
 里伽子には、すがるべき〈受け皿〉がないのです。

 それでも、「パルフェ」の本編や、ファンディスクである「フォセット」の様子からすると、彼女は失恋から立ち直ったようでした。新しく〈受け皿〉が設けられた描写はなかったので、おそらく自分一人の力でしょう。里伽子は精神的に強い(弱くはない)キャラとして描かれていますから、自力で解決できたとしても無理はなく、立ち直るという目的が達成された以上、手段である〈受け皿〉は必要なかったと見ることもできます。
 ギャルゲーにおいて〈フラれ女〉のその後が描かれることは滅多になく、立ち直ったことが仄めかされただけでも、里伽子がライターに大切にされていることがわかるでしょう。

 しかし、そうした希望を見出すことができてもなお、自分の中から「フラれた後の彼女(里伽子)は、いったいどうなってしまうのだろう」という心配は拭い去ることができませんでした。
 〈フラれ女〉となった彼女を救ってほしいと願った自分たち受け手が求めているのは、そこに至るまでの「納得できる課程」、すなわち、どのような〈受け皿〉が、どのように機能したかにあります。里伽子の場合、立ち直ったと推察できる手がかりは彼女の言動しかないため、それが強がりである=本当は立ち直っていない可能性も否めず、「立ち直った」という結果が提示されるだけでは、納得できないのです。

 ここに、自分が二次創作において、里伽子に友人を設定した理由があります。要するに、「本編に〈受け皿〉が見当たらないのだから、自分の手で設けてあげよう」という考えに基づいて。
 上述した三つの例以外にも〈受け皿〉となるものはありますが、受け手が納得し、里伽子を託すことができるのは、この「友人」であると考えられます(それがなぜ玲愛なのかは後編の補論で)。たとえ里伽子が〈フラれ女〉になってしまっても、友人が里伽子の支えになってくれることを願って。

 続きは後編で。
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2010/08/25 20:40 | Comments(0) | TrackBack() | Column

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