考えていることをつらつらと書いていったら、思いの外、長くなってしまいました。
こういうことを、落越プロデューサー……というか、アニプレックスは事前に考察しなかったのでしょうか。個人的には、「かみちゅ」は好きですが、だからって映画製作の費用を、しかも4年半も出せません。
「宇宙ショーへようこそ」の〈失敗〉
6月26日に公開された、舛成孝二監督にとって初の劇場用作品、「宇宙ショーへようこそ」。
公開からしばらく経ちましたが、さる情報筋からは、オープニング土日の興行収入が1376万円というデータが挙がっています。筆者である自分は映画の興収について詳しくなく、また、上映館数や製作費との兼ね合いもあって(黒字か赤字かの判断ができないので)、現時点ではこの数字だけを見て「宇宙ショー」の行く末を断言することはできないものの、少なくとも「(大)成功」と呼べるものではないでしょう。
これを受けた自分の感想は、「あぁ、やっぱりな」という冷めたものでした。はっきり言ってしまえば、公開前から「売れるのか? これ」と疑問視していて、その予想が的中してしまったわけで。こうした予想は、何しろ公開前からのものですから、実際の作品の出来とは別の部分を根拠にしています。
では、その根拠とは何なのか。結果として1376万円という「(大)成功」とは言えない数字が出てしまったのはなぜなのか。今回は、内容に関してのレビューはさて置いて、商業用作品としての「宇宙ショー」がしでかしてしまった〈失敗〉について、簡単にではありますが考察してみたいと思います。
なお、本来ならば、こうした考察記事は7月末に発売予定の公式ガイドブックを読んでからの方がいいのですが(スタッフへのインタビューなどで新たな情報を得られるかもしれないので)、それまでモチベーションが維持できない可能性があるため、早めに書いてしまいます。ご容赦ください。
■作品の対象
初めに抑えておかなければいけないのは、「宇宙ショー」はどういった客層を対象にしているのかということです。例えば、高年齢層など、予めターゲットを絞っているならば、元々客層として見込める人の数が少ないため、ある程度興収が低くても(製作側の)想定の範囲内と考えることができます。
では、「宇宙ショー」の場合はどうかというと、舛成監督は、インタビューで「子供から大人まで、多くの方に楽しんで頂けるような作品にしたいと思っていた」と語っています。また、スタッフコメントには「子供」「家族」という言葉が頻出していることからもわかるように、「宇宙ショー」は、限られた年齢層や、普段から、いわゆる深夜アニメなどに慣れ親しんでいる一部のアニメファンにではなく(あるいは、『だけにではなく』)、子どもやその親といった幅広い年齢層に向けた「一般的な(一般向け)」作品を目指していたと考えられます。
しかし、こうした客層の想定は、果たして正解だったのでしょうか。
■代表作としての「かみちゅ」
先に挙げたインタビューでもそうですが、「宇宙ショー」の宣伝記事には、ほとんどと言っていいほど舛成監督の作品である「かみちゅ!」の名前が記載されています。劇場で販売されているパンフレットにしても、表紙をめくった右のページでは真っ先に「かみちゅ」のことに触れられていました。
要するに、「かみちゅ」を舛成監督の代表作として、「あの『かみちゅ』を作った舛成監督の作品だから、今回の『宇宙ショー』も期待できますよ」という宣伝趣旨なのでしょう。
手抜きで恐縮ですが、「かみちゅ」をご存じない方はWikipediaを参照してください。ここで重要なのは、同作が第9回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞したことです。一介の深夜アニメでしかなかった「かみちゅ」、及び、これまではどちらかと言うとアニメファン向けの作品ばかりを手がけたきた舛成監督が公的に評価され、このことが、パンフレットで舛成監督が「賞を受賞したことで映画づくりの扉が開かれました」と語っているように、「宇宙ショー」を製作する契機になったと考えられます。
ただ、「公的に」評価されたと言っても、それが「一般的な」認知度につながったというと、残念ながらそうではないように思えます。歴代のアニメーション部門受賞作を見てもらえればわかる通り、Wikipediaにも項目のない=かなりマイナーな作品も多く含まれており、例えば、「かみちゅ」と同年に同じ優秀賞を受賞している「死者の書」に関しても、自分のようにご存じない方が多いのではないでしょうか。
つまり、「あの『かみちゅ』を作った舛成監督の作品だから」と言われても、元から「かみちゅ」を見聞きしているアニメファンはともかく、深夜アニメなど見ない一般的な人たちにはピンと来ないということ。しかも、そういった「ピンとこない」人々を「宇宙ショー」は客層として想定しているのだから問題です。
■作品としての「売り」
では、「かみちゅ」を除いた場合、「宇宙ショー」の「売り」、すなわち、客層として想定されている一般的な人たちに対する「アピールポイント」はどこにあるのでしょう。
舛成監督の作品として挙げられるのは、パンフレットにも記載されている「R.O.D」や、他には「ココロ図書館」などがありますが、いずれも、アピール度は「かみちゅ」より低いと思われます。
同様に、脚本の倉田英之氏にしても、製作会社であるA-1 Picturesにしても(※1)、これまで手がけてきた作品から考えると、一般的な人たちへのアピール度はそう高くありません。
また、ベルリン国際映画祭にノミネートされたと言っても、同賞に同年ノミネートされた「aramaki」の知名度が低いことを考えると、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門と同じく、アピールポイントとして有効であるとは言い難いでしょう。
初日の舞台挨拶では、司会の方が「22分の先行放送(※2)」「主題歌を担当したのはスーザン・ボイル氏(氏についてはWikipedia参照)」とアナウンスしていましたが、これらのことは話題作りになっても、すなわち「劇場に観に行きたい」という動機につながるとは考えられません。スーザン・ボイル氏のアピール度については判然としないものの、この場合、誰が主題歌を担当しても(氏以上に著名な方であったとしても)、「観に行きたい」という動機につながらないという結果は変わらないように思います。
さらに言えば、「少年少女たちが宇宙へ冒険の旅に出る」というストーリーも、取り立てて斬新なものではないため、内容だけでアピールできるとも考えられません。
以上のように考えると、「かみちゅ」を除いた場合、「宇宙ショー」の売りは、ほぼ「ない」と言っても過言ではなくなってしまいます。そもそも「かみちゅ」のアピール度が低く、それを補う要素も他にないわけですから、「宇宙ショー」は一般的な人たちを呼び込む力に欠けていると言わざるを得ないでしょう。
■比較対象としての「サマーウォーズ」
さて、ここで、「宇宙ショー」の比較対象として、アニメ作品・劇場オリジナル作品・一般向け作品といった、「宇宙ショー」と共通点を持つ「サマーウォーズ」を挙げたいと思います。「サマーウォーズ(Wikipedia)」の興入は16.5億円、DVD・BDの売り上げからも、商業的に「成功」したと見ていいでしょう。
では、両者の成否を分けたのは何なのでしょうか。
「サマーウォーズ」の細田守監督が手がけてきた作品には、「デジモンアドベンチャー」や、「ONE PIECE」といった、「かみちゅ」を凌ぐアピール度を持つものが多くありましたが、中でも最大の強みとなったのは、「サマーウォーズ」と同じスタッフが製作した、アニメ版「時をかける少女(Wikipedia)」だと考えられます。「時をかける少女」も、興収は2.6億円と「サマーウォーズ」と比べれば見劣りするものの、DVDの売り上げは高かったことから、商業的に「成功」した作品であると言えます(※3)。
「時をかける少女(Wikipedia)」はオリジナル作品ではなく、筒井康隆氏の原作小説があり、さらに原田知世氏が主演した実写映画がありました。いずれも一般的な知名度が高く、アニメ作品になったときも、「あの『時をかける少女』がアニメに」といったアピールをすることができたと考えられます。
つまり、「サマーウォーズ」の場合、「時をかける少女(原作・実写版)」→「時をかける少女(アニメ版)」→「サマーウォーズ」というアピール度の連鎖が成立したと言えます。これに対して、「宇宙ショー」では、「かみちゅ」→「宇宙ショー」という流れにしたかったのでしょうが、出発点である「かみちゅ」のアピール度が低かったため、うまく連鎖させることができず、それが〈失敗)につながってしまいました。
■今後の対策
以上のように、「宇宙ショー」の商業的な失敗は、「一般向け作品なのに一般向けのアピールができていなかった」という、販売戦略の拙さにあると言えます。
では、成功するためにはどうすればよかったのか。その対策は2つあります。
1つ目は、一般的な人たちではなく、以前から「かみちゅ」や舛成監督を見聞きしている、言ってしまえばアニメファンをターゲットにすること。そうすれば、一般的なアピール度が低くても、ある程度の商業成績が見込めます(一般向け作品の成功と比べて、成功の度合い=売り上げは低減しますが)。
ただ、落越友則プロデューサーがパンフレットで「(A-1 Picturesの)看板になるような作品を考えていた」と語っていることから考えると、客層の限定はできなかったのでしょう。となると、もう1つの対策、すなわち、一般に向けに定めて、なおかつ、その人たちに十分なアピールをする必要があります。
その方法を考案するのは難しいものの、個人的には、冒頭でも触れたように、「かみちゅ」をアピールの基幹とした段階で失敗だったと思います。「サマーウォーズ」の成功例から鑑みて、「かみちゅ」から一足飛びにオリジナル作品を作るのではなく、強力なアピール度を持った原作をアニメ(映画)化して(要するに、アピールの連鎖をつなぐためのタネを増やして)、そこからオリジナル作品に行けばよかったのではないでしょうか。舛成監督自身は、原作付きではなくオリジナル作品をやりたかったのかもしれませんが。
しかし、こうした対策を講じられることもなく、「宇宙ショー」は公開されてしまいました。現在も公開中であるため、逆転の可能性も一応は残されているものの、おそらく「宇宙ショー」は失敗を覆すことができないまま、ひっそりと終わっていくでしょう。DVD・BDの売り上げで取り返せるとも思えません。
だからと言って、これで舛成監督が監督業から退くことはないはずです。これも冒頭に書いたように、自分は「かみちゅ」と舛成監督のファンであるため、この失敗にめげることなく(アニプレックスを初めとするスポンサーに見限られることもなく)、願わくば、次の作品にチャレンジして、今度こそ商業的な成功を掴み取ってほしいと思っています。もちろん、作品的な成功は確保した上で。
次作は、必然的にビッグプロジェクトとなる映画ではなく、再びテレビシリーズで「様子見」するかもしれません。いずれにせよ、今後も舛成監督の作品を見守っていく所存です。
(※1)
A-1 Picturesの代表作としてパンフレットに記載されているのは「おおきく振りかぶって」と「黒執事」。アピール度の点からすると微妙ですが、仕方ないのでしょう。まさか、倉田氏が参加しているとは言え、アニメファン向けにガチガチにチューンされた「かんなぎ」を挙げるわけにもいきませんし……。
(※2)
この先行放送にしても、放送局はTOKYO MXやCSなど、一般的に馴染みのないところばかりなので、映画の宣伝(アピール)として効果的であったかには疑問が残ります。
(※3)
「時をかける少女」は幸いにして「作品的」にも「商業的」にも成功した作品ですが、作品的に成功しても商業的に失敗とみなされる作品は、ままあります。例えば、特撮作品「特捜戦隊デカレンジャー(Wikipedia)」は、「時をかける少女」と同じく「星雲賞 メディア部門」を受賞したため、作品的には成功したと言えますが、玩具売り上げの不振から、商業的には失敗と(成功とは言い難く)なってしまいました。
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