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2024/05/20 03:37 |
【ネタバレ】 踊る大捜査線 THE MOVIE3

 考えていることをつらつらと書いていったら、またしても長くなってしまいました。
 まぁ、「OD3」のレビュー目当てでこんなところまで来る人は少ないでしょうし(検索エンジンでも下位でしょうから)、胸にたまってたモヤモヤが文章として表すことで幾分スッキリしたので、よしとします。

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踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!

 このブログで「踊る大捜査線(以下『OD』)」に触れるのは初めてかもしれませんが、一応、これまでのシリーズ作品はすべて視聴しています(テレビスペシャルやスピンオフも含めて)。
 で、今回は「THE MOVIE3(以下『OD3』)」のレビュー。自分は「OD」のファンであり、7年越しに本作が復活したことは嬉しかったものの……正直、「OD3」の評価は芳しくありません。一言で言うならば、観る前から予感していた通り、「やっぱり、復活したことに意義があるだけになっちゃったなぁ」と。

 以下、3つの観点から、「OD3」がイマイチだった理由を考察してみたいと思います。
 それに当たって、同じ刑事(警察)モノであり、今年12月に映画版第2弾が公開予定の「相棒」と比較してみることにしました。まぁ、劇場版で言えば「相棒」1作目もそれほど評価は高くないんですが、「OD」と比べるといろいろと興味深い点が見えてくるので。「相棒」をご存じない方はご容赦ください。

■キャラクターの多さ
 まず、「OD」の特徴として挙げられるのが、登場するキャラクターの多さにあります。さらに、様々な部署や本庁・所轄、キャリア・ノンキャリアなどの属性をキャラに持たせることによって、警察という組織(その一部の所轄)を描くことに成功しました。それまでの「刑事モノ」は、いわゆる「探偵モノ」の舞台を警察に置き換えただけの作品(※1)ばかりであったのに対して、この点が「OD」の特徴かつ魅力であり、「主人公・青島俊作が活躍する」のみでは終わらないドラマとして機能しています。パンフレットのインタビューでも、脚本を担当した君塚良一氏が「どの人も主役になれるような群像劇から始まっている」と語っていました。
 ただ、今回はそうしたキャラの多さが裏目に出たかもしれません。
 ここで、「相棒」の主要キャラの数を数えてみましょう(劇場版1作目の時点)。
 右京・薫・美和子・たまき・伊丹・三浦・芹沢・米沢・角田・内村・中園・大河内・小野田……ほとんどがモブ的な出演である大木と小松を含めても15人。意外と少ないことがわかります。
 それに対して「OD3」は、湾岸署に限定しても、青島・すみれ・神田・秋山・袴田・魚住・中西・森下・緒方・篠原・和久・栗山・王……真下(※2)も入れると15人。本庁や警察庁の上層部、SIT・SATなども含めると、20人を優に超えます。「相棒」の1.5~2倍近くと言っていいでしょう。
 「OD」も「相棒」も、シリーズ内で育ててきたキャラを大切にする傾向にあり、さらに映画なので、尺の関係からもファンサービス的な意味合いからも、キャラを総出演させようとしています(※3)。
 ここまでならば評価されこそすれ批判されるべきことではないのですが、「OD3」の場合、一人一人に出番を与えようとしても、何しろキャラが多いので、141分という長尺にも収めきることができませんでした。結果、「結局、誰がいつどこで活躍したのかわからない」という消化不良なものに。
 和久の甥っ子である伸次郎は、「和久の甥っ子である(もっと言えば、『和久ノート』を持っている)」こと以上にキャラの存在意義がありませんでしたし、真下はひょっこり現れて署内をブラつくだけ、ヒロインポジションであるすみれも、ヒロインとしての活躍だけで、刑事らしい仕事はしていません。せっかく再登場した「交渉人 真下正義」の犯人も、セキュリティーシステムは解けず仕舞いでしたし……(※4)。
 主人公である青島にしても、事件上での活躍は、「日向真奈美を説得しようとした(実際に説得できたかは不明)」「爆発する旧湾岸署から日向真奈美を救出した」ぐらいでした。半ば無理矢理に青島の出番を創出しようとした「閉鎖された湾岸署のシャッターを打ち付けるシーン」でシラけるか感動するかが、この映画を高評価とするか低評価とするかの分水嶺かもしれません。当然、自分は当然前者なわけです。
 というわけで、「OD3」は、こういったキャラ描写の散漫さが目につきました。キャラを限定させれば「OD」ではないし、人数が膨れ上がったキャラを大切にしようとすれば尺が足りないという、シリーズを積み重ねたことによる弊害が出たとも言えます。個人的には、無理に新キャラなど増やさずに、既存のキャラだけで回した方がよかったのでは、と思うのですが、そうもいかない事情があるわけで……。

■寅さんと島耕作
 さて、次は「OD」の世界観、具体的にはキャラの出世についてです。
 これまでにも真下の昇進や室井の進退が描かれてきましたが、「OD3」ではついに、これまでは降格してもヒラ刑事よりは上にならなかった青島が係長に出世しました。パンフレットのインタビューで言えば「島耕作システム」が採用され、リアルタイムでキャラが出世していく仕組みになったわけです。
 対する「相棒」では、「寅さん」システムが採用されています。一応、劇中で年数に対しての言及はあるものの、右京は休職を挟みましたが一貫して特命係のまま、刑事部長や参事官は異動せず、小野田は一向に昇進しません。部署替えにしても、現実の警視庁の改称に対応したものです。
 どちらがより優れているかは単純には言えませんが、「OD3」では、このシステムに則って出世をしたことでワリを食うキャラが生まれてしまいました。青島に次ぐ準主人公・室井です。
 劇場版1作目(『OD1』)、2作目(『OD2』)では管理官として所轄に直接命令を下す役割だった室井は、「OD3」では、室井本人が言っている通り、「捜査に関わらないポジション」になりました。
 前述したように、「OD」の特徴は警察という組織を描いていることにあるため、所轄(青島)だけが動いていては「OD」ではなくなってしまいます。所轄や青島は必ず上層部と絡まなければならず、結果、「上層部」であり、「所轄(青島)といっしょに行動」し、そして、室井との差別化を図るため、「室井とは別の方向性」という3つの要素を持った新キャラ・鳥飼を登場させることになりました(※5)。こうした要素を兼ね備えた既存のキャラはおらず、これが、上述した新キャラを出さざるを得ない「事情」につながります。
 で、肝心の室井はどうなったかというと、当然のことながら、OD1・OD2に比べて出番が激減しました。室井がしたことと言えば、「(強引に)日向真奈美の説得に青島を当たらせた」ことくらい。室井と青島が「警察組織を改革する」約束を交わしていることが「OD」の基本構造となっているため、室井1人が青島と関係ないところ(関係ない事件)で活躍することもできません。あるいは、活躍したとしても、それは基本構造からは外れているため、「OD」のストーリーラインとは関係ないことと取られてしまいます。
 ちなみに、この辺りが室井というキャラの難しいところで、室井が所轄(現場)に対してアクションを起こした場合、青島との約束が(段階的・部分的に)果たされていることを両者の間で確認するため、その行為を「青島が認知しなければならない」という制約が存在しています。なので、、室井から命令を受けた鳥飼は、その命令が室井から下されたものであることを青島に伝える役目を負っています。
 その点、室井と同じく、上司でありながらも個人的なつながりもある「相棒」の小野田の場合、特命係や右京と協力体制にあるわけではないため(どちらかというと対立しているため)、特命(右京)が与り知らないところで暗躍していても、それはしっかり、「小野田が活躍した」と取られるんですよね。
 鳥飼のキャラ自体は多少おもしろみがあったものの(出番や活躍の点からすれば微妙ですが)、だからと言って、「室井と替えるほどの意義があったのか」と問われると疑問が。リアルタイム……つまり7年という現実の時間経過なんて気にせず、「OD2」の直後という時系列にして、それまでと同じキャラ配置でやればよかったのでは、とは思うんですが、やはり、和久さん=いかりや長介氏の死が影響しているのでしょう。和久さんを退場させるためには、劇中でも年数が経過していないといけないわけですから。

■作品のテーマ
 最後に、「OD3」が掲げた「生きる」というテーマについて。以前までにもテーマ自体はあったものの、これほどテーマが前面に押し出されるのは、「OD」では初めてのことではないでしょうか。
 ただ、これが成功したかと言うと、そうではないように思えます。
 パンフレットのインタビューによると、亀山千広プロデューサーは、「テーマを背負っているのが今回は犯人だったので、初めて犯人側もちゃんと描くことにした」と語っています。つまり、「OD3」にテーマを持たせたがゆえに犯人のバックボーンを描くことになったわけですが、これによって、「OD」がそれまで(意図的に)避けてきた人物描写の薄っぺらさが露呈してしまいました。
 犯人側に対する青島たちは、まだわかります。和久さんの死や、青島の誤診という経験をすることで「死」という現実に直面し、だからこそ、「生きる」という結論を導き出したと見ることができます(※6)。
 しかし、犯人側はどうでしょう。日向真奈美や、犯人グループのリーダーである須川圭一が「死」についてどう考えているのか、もっと言えば、彼らの考えにはどういった根拠や理由があるのかは、きちんと描写されていたでしょうか。日向真奈美は、なぜ「OD1」で被害者を手術したのか、なぜ死にたいと思っているのか、なぜその死をある種神聖なものにしようとしたのか、圭一は、なぜ日向真奈美に心酔していたのか、なぜいとも簡単に人を殺せたのか、なぜ日向真奈美が死んでいくことを容認できたのか(状況から言って、知らなかったとは考えられません)……などについてはわからないままです。結局は、テレビシリーズなどの犯人と同様の、何を考えているのかわからない=ディスコミュニケーションな人間でしかありませんでした。
 これでは、両者が対照として機能せず、「生きる」というテーマを描くことにはならないでしょう。
 対する「相棒」は、毎回登場する犯人の人物描写をかなり丁寧に行っています。例えば劇場版では、あそこまで劇場型犯罪にした意図はわからないものの、少なくとも、なぜ犯行を犯したのかについては描かれていました。……というか、これは「相棒」が推理モノの側面を持っている以上、当然の話で、必ず犯人の動機を説明しなければならないんですよね。そうしないと視聴者が納得しないので。
 「OD」の場合、推理よりも青島たちの活躍が優先されるので、例えばナイナイの岡村さんが吸血鬼のような犯行を犯しても、その理由は「そういう人間だから」で済んでしまうんです。
 また、テーマに関して言うと、「相棒」には元々、作品全体を通しての明確なテーマはありませんが(※7)、特に劇場版ではテーマを廃して、エンターテイメントに徹しているように見受けられました。ここでいうエンターテイメントとは、ハラハラドキドキさせるような、純粋な「娯楽作品」のことを指します。
 「OD」も、そもそもはエンターテイメントに特化した、「何も考えないで楽しめる」作品のはずです。パンフレットを見ると製作側もそれを理解しているようなのに、いきなり「生きる」なんてテーマを持ち出してきて、しかも、それに対する描写が不明瞭なものだから、違和感は拭いようがありません。
 では、どうすればよかったのかというと、答えは簡単。テーマなんてなければいいのです。そうすれば、犯人側の描写なんてなくても、いつも通り「そういう人間だから」で済みました(推理モノである『相棒』の場合は、テーマがなくてもそこの描写を疎かにするわけにはいきませんが)。犯人側、特に日向真奈美の描写を削れば他の主要キャラの出番が増えたのに、と思うと、残念でなりません。
 個人的には、いかりや長介氏の死という重大な出来事を乗り越えてきたとは言え、「スタッフも年食って説教くさくなっちゃったのかなぁ」という感想を抱いてしまいました。邦画の歴史に名を残す作品ですから、「自分たちがやらなくては」という義憤に(誰も望んでいないのに)駆られたとも考えられますが。

■総評
 長くなりましたが、まとめましょう。
 「OD3」は、ファンサービス的な作品としては十分に楽しめました。キャラのほとんどは顔見せしていますし、相変わらず小ネタは盛り沢山。「OD」が復活したことを実感させてくれます。
 ただ、その反面、「一見さんお断り」な印象がありました。少なくとも、「OD1」を観ていなければ、日向真奈美がどういう人物なのか把握できないまま終わってしまうでしょう。
 そうした点を除いて本編について言うと……何だか、どれもこれもが中途半端だった気がします。中身がいっぱい詰まっている幕の内弁当を作ろうとしたら、すべてのおかずをメインにしようとして失敗してしまい、食べ終わっても何を食べたのか思い出せないような、そんなもどかしさ。「おもしろかった?」と人に聞かれれば、「まぁ、記念だと思って観てもいいんじゃない?」と答える、それくらいの出来です。
 で、怖いのは「OD」の今後。すでにパンフレットで亀山プロデューサーが示唆しているように、どうも新しくシリーズを始めたいようです。いかにファンと言えど、これはまったく歓迎できません。
 和久さんが亡くなって、室井が現場(青島)から遠ざかって、上層部とのつながりが室井から鳥飼にすり替わって、ついでに、スリーアミーゴスの内、2人が引退しちゃったとしても、それは果たして「OD」と言えるのでしょうか。いかに「新生」とつけようが、それはまったくの別物です。「OD3」を観終わった後で言うのはかなり今さらですが、本音を言うと、和久さんが登場できなくなった時点で、すっぱり「OD」を終わらせてほしかったところ。いろいろな大人の事情も絡んで、そうはいかないのかもしれませんけど……。
 まぁ、興行収入的には「OD3」は「OD2」に及ばないでしょうから、その計画も立ち消えになる可能性はあります。今のところ、100億に届くかも怪しいので(興収の低さを望むのはファンとしては微妙ですが)。


※1
 「主人公を中心としたごく一部の人間が事件解決に奔走する」のが探偵モノの特徴。
 構造的には、「相棒」も、主人公である特命係2人でストーリーが成立することから、「探偵モノの舞台を警察に置き換えただけの作品」に属しています。ただ、他の部署の刑事や、特命係の直属ではない上司なども登場しているため、「OD」のように警察組織を描く側面も持っていると思われます。

※2
 まったくの余談ですが、真下は今回で署長になったものの、出世コースからは外れたと思います。上層部とのコネのない雪乃と結婚しちゃったわけですから(正確には『容疑者 室井慎次』の段階で)。
 室井が独身を貫いている理由は「容疑者~」で説明されましたけど、今後出世を続けていくんだとしたら、未婚であることが足枷になりそう。「社会人として問題あり」と見られるのが普通です。

※3
 「相棒」のテレビシリーズはこの限りではありません。例えば、特命係が右京1人になったseason7の後半に当たる第15話「密愛」では、徹底的に主要キャラの登場が廃されています。

※4
 最も、「警察署の警備システムを服役中の受刑者が破る」という描写は、社会影響的にマズいのかもしれません。だったら別のヤツにやらせればいいのに、というツッコミもありますが。

※5
 個人的には、東大出身であるため室井よりも出世しているであろうことはわかりつつも、新城辺りにこの役をやってほしかったところ。もしくは、「容疑者 室井慎次」ですっかり丸くなった沖田とか。
 ただ、この両者は室井寄りであるので、「室井とは別の方向性」にはならないんですよね。

※6
 最も、普段から「死」に触れている職業なんだから、今さら身近な人(特に青島)の「死」を持ち出さなくても、それに対する信条や心情は常日頃から持っているのでは、とは思います。

※7
 厳密に言えば、「法を犯した人間は罰せられるべき」という右京の正義がテーマになっています(なりつつあります)が、時折仄めかされるだけで、「OD3」のように前面に押し出されることはありません。
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2010/07/13 22:43 | Comments(0) | TrackBack() | Review

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