とにかくどうにもお待たせしました。初のこんにゃくSS、掲載です。宣言通り、メインはさえちゃんで。
パルフェと同じように、誰かのルートに入っているわけではありません。とりあえずは、時期的に凛奈が入寮した後だということを念頭に置いてくれれば。まぁ、ほとんど凛奈の出番はないんですが。
と言うか、今回は奈緒子とさえちゃんと航しか出ていません。ほんとは全員集合させたかったものの、7人同時出演させると大変なことになりそうなので……。特に凛奈は書くのが難しいです。みんなの中にいると、意外と埋もれてしまうため。
海己や宮は、会話だけで判別できるんですが……。静もメインには据えにくいかなぁ。
次回がありましたら、またそのとき考えます。ネタだけは思いついているので。入寮当時の海己に対峙する奈緒子とか、自分以外のルートに入ったときの奈緒子と海己とか、茜ルートのその後とか。
あ、でもそれだと長くなりそうだなぁ……。いつも通り、あくまで予定、ということで。
01
この青空に約束を― 01.「さえちゃんとお風呂と夏の夜」
「きゃぁああぁあああぁぁあ~~~~~!!!」
夜。
深夜と言っていい時間帯。
つぐみ寮の男女兼用浴場。
湯気の立ち込める空間に響くのは、絹を裂くような女の悲鳴。
当事者は二人。
高見塚学園二年生にして、生徒会副会長である星野航。
高見塚学園教諭にして、つぐみ寮寮長である桐島沙衣里。
「どうして、どうして星野が~!!」
「待て! まずは前を隠せ!」
ここで付け加えるべき特記事項。
当事者の二人は、どちらも服を着ていなかったという。
「……で?」
ところ変わって、ここはつぐみ寮の食堂。
緊急集会……の第二部は、生徒会会長の嘆息混じりの呟きとともに始まった。
現在この場所にいるのは、航、沙衣里、奈緒子の三人。
ついさっきまでは、沙衣里の悲鳴を聞きつけた寮生が全員集合していたのだが……。
敏感に事情を察知した会長により、早々に退去が命じられていた。
なぜって、夜も遅いから。
明日は平日だから。
この集会は長くなるだろうと判断されたから。
ついでに、あまり有意義にはならないだろう、とも。
「どういうことなのよ、航」
そして、開始僅か三分という短さで第一部は終了し、目下、第二部が進行中。
本来ならばこんな事態は放っておいて、奈緒子も寝床に着きたかったものの……。
頼むから収拾をつけてくれ、と訴える部下への配慮により、渋々その場に残ることにした。
もちろん、この貸しは高くつくわよ、と脅しをかけるのは忘れなかったけれど。
「どういうことって言われてもなぁ……」
早く終わらせたいのか単に呆れているのか、語気が荒くなる奈緒子の言葉に、対面に座った当事者その一は言い淀む。
片手は、海己が眠い目をこすりながら淹れてくれたお茶の入った湯飲みに添え。
もう一方の手は、生乾きの後頭部をガリガリと掻き。
ちらりと視線を当事者その二に向けつつ……。
「いや、それで全部なんだけど」
やっぱり出てくるのは、そんな答えなわけで。
予想通りの返答に、奈緒子はもう一度ため息を一つ、
「それであってるわけ? さえちゃん」
こちらも、その二に目線を向ける。
しかし、その人物――沙衣里は答えようとしない。
「ぐすっ、ひっく……」
二人とは離れた位置に座った沙衣里は、先ほどからひたすらテーブルに突っ伏していた。
嗚咽を漏らし、ふるふると肩を震わせながら。
ちなみに片手にあるのは、お気に入りの湯のみ……ではなく、ビール缶……でもなく、発泡酒缶。
周囲には、第一部のころから積もり始めた空き缶が散乱している。
「酒で失敗したっていうのにまだ飲むか、この聖職者は」
年下ながらも天敵である女生徒の苦言が耳に入ったのかどうか。
依然として沙衣里は、時おり顔を上げては此度の元凶である液体を口にしている。
「飲まなきゃね~、やってらんないのよ~」
なんてグチを混ぜつつ、赤らんだ頬をさらに朱に染めていく。
もっとも、この場合の赤みは酔いだけが原因とも限らないが。
「だからさ~、悪かったって言ってんじゃん」
「その言い方がすでに悪いと思ってない!」
「な、何だよ、ある意味こっちも被害者なんだぞ? それを十歩ほど譲って……」
「残りの九十歩はどこ行ったのよ」
「え? うーん……何と言うか……久しぶりに眼福?」
「小さいのに?」
「いや、別に俺はおっぱい星人じゃないし、知り合いのを生で見れることへの感動や背徳感が……って、何を言わせるんだ」
「だってさ。よかったじゃない、相手も喜んでくれて」
「ひーん……!」
悪意を含んだ奈緒子のダメ押しに、狙い通り泣き声を上げる沙衣里。
胸にグサッと来たのは、喜ばせるためにやったんじゃないやいと思ったからか、
それとも、標準以上に大きめである奈緒子に“小さめ”と断言されたからか。
「……ますます泣かせてどうするんだよ」
「いいのよ、しばらくすれば収まるでしょ」
「それまでに何本のストックが消費されることか……」
「だいたい、起きたものは仕方ないじゃない。そんな、お風呂場で鉢合わせなんてベタなハプニング」
……そう。
今宵の事件は、要約してしまえばそういうことだった。
日課であるベランダライブを終えた航が一人で風呂に入っていると……。
脱衣場で誰かの服を脱ぐ音が聞こえてきて……。
相手が静だと思った航は、扉が開くまで対応をせず……。
しかし、いざ対峙してみれば、それは酔っ払った沙衣里だったという……。
ただそれだけの話である。
問題は、双方が当然のごとく全裸であって。
その出来事に対して、予想以上に沙衣里がショックを受けていることにある。
「俺が入ってるってわからないほど酔ってたのに、湯船につかろうとは……」
「新任女性教師、職場の労苦に耐え切れず自殺……か。三面記事くらいにはなりそうね」
「だってだって、汗かいてて気持ち悪かったんだもん。仕方ないでしょう!?」
「いや、それ言い訳にもなってないから」
「男子と女子が同じお風呂場を使ってることに問題があるのよ!」
「それは仕方ない……と言うか、どうすれば納得してくれるんだよ、さえちゃん」
「謝罪をしなさい、謝罪を!」
「あぁ……すまん」
「もっと!」
「えろぅすんまへん」
「もっともっと心を込めて~! 賠償金も~!」
「場合によってはあんたが加害者だってのに、な~にを寝ぼけたことを」
「確かに半分眠ってたような……」
「そのスキに? 星野航は担任教師の裸体をじっくり堪能したと?」
「いた! いたた! 奇妙なところを器用に蹴るな!」
「聞きなさいよ~、こっちの話を~。……んぐ、んぐっ、ぷふぁ~」
空になった缶を脇に避け、新たな一本のプルタブを開けながら。
絶妙な足技を披露する奈緒子と披露されている航をニラみつける沙衣里。
とろんとした、どこからどう見ても酔っ払いの瞳には、依然として涙が滲んでいる。
「そもそもねぇ! あんたたちには、女の子が自分の裸を見られたってことがどれくらいショックかなんてわからないのよ!」
「誰が女の子だ、誰が」
「ほ~ぅ、現役女子○生にして×歳であるあたしは女の子ではないと?」
「浅倉には、ってこと! 聞いてるわよ~? あんた、男の人からモテモテって話じゃない」
「それって、自分のモテなさを自慢しているようにも聞こえ……」
「ほほ~ぅ、あたしは、あんなナンパ野郎どもに肌を晒す女であると?」
「いたたたた! 八つ当りを俺にするな!」
「だんだんと楽しくなってきて……あ、ここ?」
「そうだよ、なんて言えるか!」
「もう~! 聞きなさいってば~!」
真夜中であるためか、端から真剣に議論する気がないのか、徐々に混沌としてくる第二部の会議。
航と航の部分の反応をしばし堪能した奈緒子は、足を離すと沙衣里に向き直った。
横目では、しっかりと“その後”の様子を観察しつつ。
「さえちゃんさぁ、中学生じゃないんだから、そこまで引きずらなくてもいいんじゃない?」
「そんな気楽に~……」
「犬にかまれたと思って忘れなさい。ね?」
「でも……でもでも……。子どものころにねぇ、隣のうちがおっきな犬飼っててねぇ、ある日そいつに、突然ガブリってねぇ……」
「……忘れてない、ってこと?」
「うーむ、さすがの会長でも手こずるのか……」
「相手がさえちゃんってのが納得できないところね……」
「どういう意味よ、それ~!」
「聞いたままの意味」
「く~!」
「あ~、こぼれる、こぼれる」
「そ、そんなに言うなら!」
怒髪天を衝いた沙衣里による反撃。
それは、本人が想定していた以上に改心の一撃だった。
「浅倉が見せてみせてよ! 星野に裸を!」
「……な、」
「……え?」
「どうなのよ~? 忘れられるの~? ね~?」
「…………」
「…………」
「わたしなんてさ……男の人に見られるの……だったのに……」
「…………」
「…………」
「それを……よりによって星野に……」
思わず飛び出た沙衣里の言葉に、反応もできず凍り付いてしまう二人。
あの奈緒子が、沙衣里の失言を聞き漏らすほど打ちのめされている。
素面の沙衣里――他の誰かならば、気付いたかもしれないほどの違和感。
航と奈緒子は何かを確かめるのが怖いように、しばらく目を合わそうとはせず。
その間、沙衣里は順調に空き缶の山を築き上げ。
盛大にノドを鳴らす音だけが室内に響き……。
「あ~、もう……!」
やがて、会長がキレた。
立ち上がり、びしっと沙衣里を指差す。
「さえちゃん!」
「ふえ?」
「お詫びとして、航がビールを買ってくれるから。第一のやつを。しかも一ケース」
「お、おい……」
「あと、しばらくは外にある蛇口をお風呂代わりにするって。罰として」
「お、おいおいおいおいおいおい……!」
「どう? これで不満は解決でしょ?」
「不満って言い方が気に入らな……」
「どう!?」
「わ、わかったわよ……」
「か、会長……」
「はい、それじゃ解決ね。お開きお開き」
一方的に言い放ち、一方的に去っていく奈緒子。
最後の一滴を飲み干そうとする沙衣里は捨て置き、航はその後を追った。
なるべく、さっきのことを頭から追い出してから、
「……どうするんだよ、あんなこと言って」
「いいじゃない、一応は収まったんだし」
「けどなぁ、」
「大丈夫よ。どうせ覚えてないでしょ。もしかすると、今夜のことも全部忘れてるかも」
「さえちゃんならありうるのが怖いな……」
「そういうこと。それじゃ、お休み」
「あ、あぁ、お休み。……ありがとな、いろいろと」
「いいわよ。ちょうどほしかったしね、新しいブラウス」
「……どっちにしろ高くつくんだな」
「みんなには、あんたから説明しなさいよ?」
「うわぁ……」
頭を抱える航と、部屋へと戻っていく奈緒子。
ついでに、食堂で眠りこける沙衣里。
「すー、すー……」
こうして、つぐみ寮お風呂場騒動はひとまずのまとまりを見せたかのように思えたが……。
航の頭は、すでに凛奈や海己をどうなだめるのかでいっぱいになっていたが……。
結果的に、二人の期待は裏切られることになってしまう。
予想の斜め上を行く結末によって。
空けて翌日――
ビール、という単語がマズかったのか、残念ながら沙衣里はすべてを覚えていた。
一人きりで放置されたことを恨む目にも、どこか照れが混じっていた。
策士策に溺れたのだろう、二度までもさえちゃんに手を煩わされた奈緒子は怒り心頭。
結局、航はその夜、会長命令により蛇口をシャワー代わりとすることになる。
まぁ、近々奈緒子が沙衣里を説得し直してくれるだろうし。
裸になっても、季節はまだ夏だし。
宣言通りのことをやれば、沙衣里のご機嫌を取れるかもしれないし。
「うわっ、まぶしっ」
ところが……。
そこでさらにダメダメな行動を取ってしまうのが、沙衣里が生徒にさえちゃんと呼ばれる所以であって。
航が買ってきたビールを懲りずに嬉々として飲んでしまって。
案の定、酔っ払ってしまって。
記憶や判断力なんてどこかへ行ってしまって。
「そこにいるのは、だ~れ~だ~?」
寮の安全はわたしが守る、という、珍しく発揮した責任感の下。
懐中電灯を片手にした沙衣里は、蛇口付近に佇む不審な影を照らすことになる。
「きゃぁああぁあああぁぁあ~~~~~!!!」
つぐみ寮には、今夜もまた、絹を裂くような女の悲鳴が……。
END
あるあるwww
後半の奈緒子が特に面白かったです♪
やっぱりこんにゃくは甘酸っぱいな~☆彡
本編でももう少し過去話を匂わせてくれたら、奈緒子の株が上がっていたんですが。