ペット 空影 -karakage- 忍者ブログ
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2024/05/20 01:43 |
【SS】 パルフェ 02-3.「仁が右手をケガしたら (後編)」

 2クールかけて放送されていたアニメ「瀬戸の花嫁」が1日の深夜、無事に終了しました。10月に入ったことで前期と表現しますが、おそらくこの瀬戸の花嫁は、前々期~前期のアニメの中でも最高峰の出来ではなかったかと。もちろん毎週楽しみに見ていたものの、まさかここまでの大物に化けるとは思いませんでした。まったくもって素晴らしい。毎週レビューしていなかったことが悔やまれます。
 いろいろと話題になった「School Days」にも本作のシリーズ構成・脚本を担当した上江洲誠氏が同じくシリーズ構成・脚本として参加されていたということで、俄然、注目人物に躍り出てきました。同時期に方向性のまったく違うものを両者とも成功させるなんて……。今後の活躍が楽しみです。

 最終回を見た後の興奮から、久方ぶりにコードギアスと丸戸氏作品以外でSSを書きたくなりました。まだ構想の段階ですが、出来れば実現させたいなぁと。長くなりそうだから、冬コミでもいいかも。
 内容としては、もしかしたらあるかと期待していた永澄と燦ちゃんのあのシーンを扱うものになる予定。スタッフ的に思い留まった一線であるとはわかりつつも、二次創作として格好のテーマであることは確かなので。問題は、作中に出てくる方言をどうするかですね。指導してくれる人なんていないですし……。

 さて今日は、延び延びになっていたパルフェSSの後編を。非常にお待たせしました。
 自身ですら前・中編を読み返したほどです。今後はこうならないようにしないと……。

拍手[2回]


 01(前編後編)・02(前編中編、後編)

パルフェ 02-3.「仁が右手をケガしたら (後編)」

「っぷ……」
 ファミーユ、ブリックモール店。
 休日を前にした火曜日。
 休憩室で一人休憩を取っていた仁は、盛大に吐き気を催していた。
 五日ほど前から、毎日、同じようなことをしているなと思いながら……。
「……それで?」
 目の前には、まだウェイトレス姿のかすりが佇んでいる。
 彼女にしては珍しく、心配げな様子と申し訳なさと……そして、やはり愉快さをその顔に滲ませて。
「何でこうなっちゃってるの? 先週よりヒドいじゃない」
 ちなみに、店は終業し、片付けの真っ最中。
 一日中、総店長によって軟禁されていた店長の下に救援……という名の、からかい魔が面会に来ていた。
「それは……」
 昼以来、一向に重さの変わらないお腹を抱えつつ、仁は顔を上げた。
 半分以上はあなたのせいで、とは本人がわかっているだろうからあえて言わず。
 きっと、おそらくは、たぶん、ひょっとしたらかすりの予想した範囲外である事柄だけを述べる。
「朝食をね、作ってくれて……」
「リカちゃんが?」
「いや、れ……花鳥が」
「いいってば、訂正しなくても。仁くんがお向かいのチーフさんと仲良し小好しなのは周知の事実だし」
「周知なのか……」
「約一名を除いては」
「そこにもう一名……二名を加えて頂くわけには……」
「認めなさいな、いい加減」
「なかなか承服しかねるものがありまして……」
「まぁ、その辺の追求は追い追いするとして。……それで?」
「あぁ……それで、玲愛が毎朝、朝食を作ってくれて……」
「モテモテだねぇ、仁くん」
「量がさ、半端ないんだ」
 ふと、声のトーンが落ちる。
 わなわなと震える仁の両手。
 その片方には、今日も姉に幾度か結び直された包帯が不恰好に巻かれている。
「今日なんか、ご飯と味噌汁と納豆と卵焼きと目玉焼きとゆで卵と焼き鮭と味海苔と煮物とサラダと牛乳とりんごとなしとついでにヨーグルトと……」
「う」
「ご飯と味噌汁はお代わりしないと怒るし」
「うわ」
「卵料理は俺が作るほうがうまいって言っても怒るし」
「うわー……って、それは仁くんが悪いでしょ」
「とにかく、何だか妙に張り切ってるんだ」
「愛されてるねぇ、仁くん」
「むしろイジメに近い気がするけど。コレステロール過多だし」
「そう言えば、リカちゃんはどうしてるの?」
「いるよ。朝も早よから部屋に来て、何も言わず何も食べず、俺たちの食事が終わったら大学に行ってる」
「……何それ」
「俺に聞かないでくれ……」
 里伽子による冷凍食品攻めは自然に回避できた……と言うより、回避せねばやっていけなくて。
 二人の不可解な行動の意図は理解できず、自分が窮地に立たされていることだけがわかっていた。
 豪勢な朝食が提供された数時間後に待っているのは、さらに豪勢な昼食。
 おやつなどと称して、店の商品を店に出す前に持ってくることもしばしば。
 この状況が続けば、ひょっとしたら、たぶん、おそらくは、きっと……。
「入院ってことになってしまう……食べすぎで」
「飲食店の店長でそういうのは……。あ、新作の味見してたら美味しすぎてっていうのならいいかも」
「念のため聞いとくけど、玲愛を召還したのはかすりさんが……?」
「いかにわたしでも、そこまでの力は残念ながら」
「ってことは、力があったならやってたってことか」
「うむうむ、わかってるじゃない」
「あのね……」
「にしても、その様子だとリカちゃんが花鳥さんを呼んだんだよね? 珍しい」
「その『珍しい』が修飾してるのは『花鳥さんを』なのか『呼んだ』なのかはさて置くとして……確かに」
「その『確かに』が……」
「もうええっちゅうねん」
 エンドレスになりそうな会話を遮り、げっぷ気味のため息を一つ。
 店に常備してある胃腸薬では、すでに効果がなくなっている。
「ふぅ~……」
 問題は、その他にも……それ以上にあった。
 彼女たちからの好意を退けられないということだ。
 恵麻を拒めば店が崩壊し……。
 玲愛を拒めば、なぜか里伽子からも責められる未来が予想でき……。
 つまりは八方塞だったりする。
「どうしたらいいと思う? この状態」
「改善したいの? もったいない」
「俺にとっては死活問題だってば、文字通り」
「だったら……どちらかに手を引いてもらうしかないんじゃない? 和解ってことにはならないだろうし」
「できるわけないって。特に姉さんは」
「まぁねぇ。まさかライバル店の、それもお隣さんが仁くんの世話を焼いてるなんて知ったら……」
「…………」
「すぐにでもキュリオに殴り込みに……」
「…………」
「……仁くん?」
「姉さん……」
「え?」
 仁の口からこぼれ出た名詞に、かすりは思わず振り返る。
 ドアから顔を覗かせていたのは、この展開で最も現れてほしくない人物。
 かすりですら、怖気を感じてしまうその表情。
「仁、くん……」
 恵麻、だった。
 パティシエール姿の姉は、瞬きをすることも忘れて、じっと弟を見つめている。
「それ、本当……?」
 不幸だったのは、かすりがこの部屋へ黙って来てしまったことだ。
 しかも、恵麻にだけは目撃されてしまって……。
 なかなかかすりが出て来ず、もしかして二人で……という、いつものお姉ちゃんパワーを発揮した恵麻は盗み見るように扉を開けてしまい……。
 結果、現在の状況に至る。
「そ、それは……ウソじゃないような……真実のような……」
「ほんとなのね!?」
 ズンズンと歩み寄ってくる恵麻には、すでに総店長としての威厳は欠片もなかった。
 元々ないという説もあるが、今はそんなことを言っている場合ではなく。
「どうして? 何で言ってくれなかったの? キュリオの人なんかに頼らなくても、姉ちゃんが部屋まで行ってあげたのに。言っちゃダメって脅された? ヒドいことされた? 無理強いされた? だから最近、姉ちゃんのご飯もあんまり食べてくれなかったんだ?」
「あれでも頑張って食べてたんだけど……」
「ツッコムところはそこですか」
 すでに恵麻の頭の中では、キュリオ=悪=玲愛という三段論法が成り立っているらしい。
 最早、こちらの言い分など聞いてくれないことは目に見えている。
 これまで何度も同じような危機に陥ってきた二人も、爆弾処理のノウハウは依然として掴めておらず。
 ここは黙って沈静化するのを待って……いられるはずもなかった。
「行きましょう!」
 普段ならケーキ作りのときにしか披露されない早業で、むんずと、恵麻は仁の左手を握り締めた。
 こんなときでもしっかりと弟の気遣いをしている辺りが、恵麻の恵麻たる所以だったりする。
「ど、どこに?」
「決まってるでしょ!?」
「かすりさ~ん……」
「止められると思う? わたしに」
「……ごもっとも」
 成す術なく仁は、自分より小柄な姉にずるずると引きずられていった。
 店を抜け、通りを渡り、向かいの店の入り口を開けて……。
「……仁?」
 驚いて手を止めたのは、一つの人影。
 さすがは玲愛、居残って店内の掃除をしていたようだ。
 モップを片手に、闖入者へ怪訝な瞳を向けている。
「どうしたの?」
「どうするんだろう……」
「?」
「ひとし……」
「え、えーと、そちらは……」
「あなたね、花鳥さんっていうのは」
「そういうあなたはファミーユのパティシエールの……」
「杉澤恵麻。仁くんの姉です。こうしてご挨拶するのは初めてかしら」
「そうかもしれませんね……。花鳥玲愛です、初めまして……」
 応じつつも、玲愛は仁に、どういうこと、と視線を投げかけている。
 答えようにも、恵麻の威圧感がそれを許してくれない。
 ついでに、手も離してくれない。
「単刀直入にお聞きしますけど、あなた、仁くんの朝ご飯を作ってあげてるんですって?」
「え……?」
「どうなんですか?」
「…………」
「作ってるんですよね?」
「……ええ。作ってますよ? それが何か?」
 さすがは玲愛、数瞬にして恵麻がキュリオに乗り込んできた動機を悟ってしまったらしい。
 細められた目が、仁から恵麻に向けられる。
 今にも火花が飛び散るんじゃないかと、傍らに拘束された仁は気が気ではない。
「ごめんなさいね? う・ち・の、仁くんがお世話になっちゃったみたいで」
「いえいえ、お構いなく。仕・方・な・く、していることですから」
「あら……だったら無理に、とは言わないんですよ? 仁くんも迷惑しているようですし」
「迷惑……?」
「そうよね? 仁くん」
「そ、それは……」
「そうなの? 仁」
「ノーコメント……っていうのは、ダメ?」
『ダメ』
 異口同音に却下されてしまった。
 こちらを立てればあちらが立たず、右手のケガがまさかここまでの事態に発展するとは。
 仁が答えに窮していると、背後からもう一つの声が……。
「それはほら、あれですよ」
 いつの間にか付いて来たかすりが、ちゃっかりキュリオに足を踏み入れていた。
 新しい玩具を見つけた子どものように眩しい笑顔で、滔々と語り始める。
「キュリオを懐柔しようっていう仁くんの頭脳が冴え渡る作戦です。売り上げを上回るのはもちろんとして、花鳥さんを篭絡させれば馬も将も射たのと同じことだから。ここは大人しく言うことを聞いておこうという……」
「何で物事をさらにかき乱すかなぁ!?」
「ごめんね、ここまで来たら隠し通せないと思って」 
「そうなの、仁!?」
「ち、違……」
「違うの、仁くん!?」
「どうすればいいんだ……」
 頭を抱えようとして……左手が自由になっていることに気付く。
 恵麻は玲愛へと歩み寄り、今しも掴み合いを始めんとばかりに顔を突き合わせていた。
「とにかく、部外者であるあなたにこれ以上、仁くんを預けられません。即刻、手を引いていただきます」
「こっちから願いさ……じゃなくて、姉が必要以上に世話を焼くほうがおかしいんじゃないですか?」
「だからと言って、ただ隣に住んでいるというだけで部屋に上がりこむ理由にはならないと思いますけど」
「店の外での交友関係にまでとやかく言われる筋合いはありません」
「姉ちゃんがやりますから!」
「私が! ……じゃなくて、もう大人なんだから……でもなくて、頼まれてしょうがないから……違う、私が……あぁ、もう!」
「…………」
「修羅場ってるねぇ」
「誰のせいで……あ、言っちゃった」
「じゃ、手っ取り早く解決してあげよっか?」
「え?」
「恵麻さん、花鳥さん。何なら、どっちが仁くんの料理を作るのに相応しいか対決しません?」
「お、おいおいおいおい……!」
「もめるだけじゃ決まりませんよ? ちょうど明日はお休みだし」
「そうね。そっちにやる意思があるなら……」
「売られたケンカは買いますよ……?」
「ま、待ってくれって。そんなことしなくても、もうすぐこの手も……」
『なに!?』
「……何でもないです」
 ヒートアップする両者の剣幕に、口をつぐむしかない仁。
 我ながら情けないと思いつつも、こうなってしまったからには手の施しようがないと諦めていると……。
「何やってるの? こんなところに集まって」
 新たな訪問者がやって来た。
 振り返ると、そこに立っていたのは……里伽子。
 お馴染みのつまらなそうな表情に、今は呆れを織り交ぜている。
「ファミーユを空っぽにしてすること? 鍵もかけないで」
「聞いてくれよ、里伽子。それがさ……」
「……あ」
「あ?」
 釣られて漏れた疑問符は、長くは続かなかった。
 希少価値の高い里伽子の驚き顔が、ゆっくりと上方に流れていく。
 否、こちらが下方に落ちていく。
「あぁああぁあ~~~~~~」
 不運だったのは、このとき、キュリオの店内が薄暗かったことだ。
 テーブルに立てかけていたはずのモップは、床に転がってしまっていて……。
 それを仁は見事に踏んづけてしまって……。
「大丈夫?」
「あんまり……」
「痛い?」
「けっこう……」
「動く?」
「……いいえ」
「だ、そうです」
 そして、右手で体を支えてしまったことだった。
 治りかけていた利き腕は、瞬時に一週間前以上の容態へと戻ってしまう。
「やっぱり、雌雄を決しなければいけないらしいわね」
「そのようですね。負けませんから」
「いや~、騒動には事欠かないね~、仁くん」
「……自業自得」
「…………」
 体を横たえて思うのは、己の運命か偶然か不注意か。
 じわりじわりと、罪を罰するかのように痛みが増していく。
「誰か起こしてくれ……」
 夜更けのブリックモール、争奪戦のルール決めは難航を極めた。
 仁の看病を巡る騒動は、まだまだ終わりそうにないようだ。


  END

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2007/10/01 17:02 | Comments(0) | TrackBack() | SS

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